タマムシデパートでポケモンたちの回復薬を買ったあとの話だ。
エレベーターの現在地を示す明かりが自分の階からすごく遠い位置にあったから、エスカレーターの方が早いと判断しそちらを利用した。
普段は足を踏み入れない階層でふと顔を上げて、目に飛び込んできた一着の服。
マネキンにディスプレイされていたワンピースに、彼女に似合いそうだなと考えて。
グリーンは気付いたらそれをレジに差し出していた。



「わあ、珍しくひどいことになってるわね」

ブルーが思わず手を口にあて感嘆の声を上げる。
座る場所もないほど散らかすなんて、彼にしては珍しい。資料を踏んでしまわないよう気をつけながら手近なソファに腰を下ろす。
げっそりとした表情のグリーンが、姿勢悪く腰掛けていた椅子から鬱陶しげに彼女を見上げた。

「…ブルーか」
「何日目?」
「一週間」

一週間ベッドでまともに寝ていない。簡潔に告げられた言葉にブルーが盛大に顔をしかめる。
少しは休みなさい。そんなに根詰めないの。最後に寝たのはいつ?言おうとしてすぐに諦めた。言ったところでどれも少しも意味がない。
そのかわりに最後の仕事がいつ終わりなのかを問えば、二時間後と返事され唖然とした。

「…二時間後?」
「二時間後」

なんともまあ、間の悪い時に訪ねてきてしまったか。
先ほどからまったく手を休めない彼にようやく納得し、それなら、とブルーは立ち上がる。

「部屋、片付けるわよ」
「助かる」

書斎―――つまりはこの部屋だ―――をうろつけば彼も気が散るだろう。
ここの他に散らかっていそうな場所を思い浮かべ、ブルーは足を向けた。



ジムの窓からピジョットを飛ばし、ようやく一段落ついた仕事に大きくため息する。
そこでふとジムの簡易キッチンから漂う香りに気付き、そういえばブルーが来ていたのだったと思い出した。
正直、ここ数日の記憶がおぼろげで、自分がどうやって生活していたのかも覚えていない。

ダイニングへ行くと、足音に気付いたブルーがひょこりと顔を覗かせた。
あら、終わったの?問いかけに頷けば、お疲れさまとひとこと。

久方ぶりのきちんとした食事に一息つけば、ブルーが、ああ、そういえばという風に口を開いた。

「ね、ナナミさんの誕生日っていつだったかしら」
「姉さん?」
「あたしの誕生日に祝ってもらったでしょう?何かお返ししたいじゃない」

ナナミの誕生日はずいぶん前に過ぎた。そのことを話せば、ブルーは少し考えたような素振りをしたあと、そう、残念だわ、と目を伏せる。
特に不自然には感じなかった。