ふわふわの髪、日に焼けない真っ白な肌、強気な光を湛えた、大きな瞳。

 「かわいい」とは彼が最も嫌う言葉だが、やはりこの形容詞が一番しっくり来る。

 年を重ね少年から青年に変わってもそう思う気持ちが変わらないのは、恋人の欲目だろうか。



   ふわふわの髪を指先に絡める。指通りのいいそれは、引っかかることなくするりと滑り落ちた。
 その感触が気に入って繰り返していると、雑誌に向けられていた視線がつい、と上がる。

 「何?」と目線だけで問いかける翼に、柾輝は何も言わないことで「別に」と答えた。

 理由は特になかった。ただ手持無沙汰になって、何をしようかと思案していた時に、視線の中に入った栗色の髪に触れたいと思っただけだ。

 お互い無言で、一方は相手の髪を指先でいじり続け、また一方は何も言わずされるがままになっている。傍から見れば異様な光景だが、ここは柾輝の部屋、しかも二人っきり、他人の目を気にする必要はない。


   時折、柾輝の指先が耳を掠めると、翼の華奢な肩がひくりと跳ね、くすぐったそうに笑った。


   あ、と柾輝は思う。

 やっぱこいつ、かわいいわ。


   もちろん言葉にはしない。口にしたら最後、久しぶりに会えた恋人の機嫌が急落しかねないからだ。それだけは避けたいと、柾輝は無言を貫き通した。


   指先を、今度は頬へと滑らせる。野外競技をしているというのに、なぜこいつの肌は褐色に色づくことがないのか。柾輝にとって最大の謎だ。


 「ねぇ、何なのさ、柾輝、」


 くすぐったいんだけど、と翼が笑う。けれど柾輝の手から逃れようとはしないのだから、柾輝も手を止めない。

 指先を頬から耳の裏に移動させ、そのまま顔の輪郭をなぞるように指を滑らせる。そうして両手で柔らかな頬を包み込み桜色の唇を親指の腹でぷに、と押すと、白い頬にさっと紅が散った。


 また、思う。

 かわいい。


 感情が表に出てきたのか、口角がわずかに上がった。それに気づいた翼が「何笑ってんのさ」と唇を尖らせる。


   20歳をとおに過ぎた大人がする顔かよ、と思う反面、柾輝の胸がキュウウと締め付けられた。これがあれか、萌えなのか。あながち間違っていない結論である。


 「翼、」

 「・・・何?」

 「俺意外にその顔見せんの、禁止な」


 は?と瞳をころりと丸くした翼を引き寄せ、かわいらしいキスを一つ。

 本格的に赤くなった翼を見て、柾輝は盛大に噴き出した。


   もう長い付き合いだというのに、どうしてこいつの反応はいちいち初々しいのか。


 笑うな!と赤い顔のまま睨みつける翼を腕の中に閉じ込め、我慢ならず、囁いた。


 「ほんっっとお前、かわいいな」


 そうして予想通り不機嫌になった翼の機嫌を取ろうと柾輝が奮闘するのは、また別の話である。



友人蛇ちゃんより柾翼を頂きました!
20歳を超えてもこの可愛さ…さすがは柾翼…!
私の青黄と交換してもらいました!

蛇ちゃん、ありがとうございました!
(120811)