祖父からどうしてもと頼まれた仕事をこなす為に実家に戻ったのは確か一週間前だった気がする。
しかしこの部屋の惨状(状況と呼ぶにはあまりに酷い)は通常一週間やそこらで出来るものではない気がするが、目の前にあるからには出来てしまったのだろう。

「これは、まぁ…」

呆然としている後ろでマサキが縮こまっていた。
眺めていても散らかったものが元の位置に戻るわけでもないので、取り敢えず手近な所から片付け始める。
仮眠用に置いてあるソファーの周りに山を成している洗濯物を籠に放り込んで洗濯機の中へ入れた後、クッションと毛布を外ではたく。
洗濯機が回っている間に床に散らばっている本を拾い集めた。
此処を発つ前は壁一面ぎっしりと研究所や資料の詰まった本棚だった所が今や歯抜け状態で、中に入っていたそれらは無造作に散らばっているか本棚の手前に堆く積み上げられているかのどちらかである。
散らばっているほうはともかく、積み上げられている方は今にも雪崩を起こしそうだ。

「すんまへん…ナナミはんが帰ってくる前に一回片付けなとは思っとったんやけど…」

どうしても仕事の締め切りに追われてしもて、とマサキは溜息を吐いた。その風で細かい埃が舞い上がる。
本を片付けたら掃除機と雑巾掛けかしら、と考えながらふと仕事机の方を向くと、その上には空のペットボトルやサプリの袋、携帯補助食品のパッケージが並んでいた。

「まさか…この一週間まともに食事されてないんじゃ?」
「へぁ?」

のんびりと本を拾い集めていたマサキがナナミの問いかけに振り返る。
その顔は自分の出発前よりやつれており、目の下には隈が出来ていた。
それを見たナナミは眉を吊り上げ、マサキを仕事部屋から追い出す。

「え、いや、ナナミは「向こうのソファーで仮眠を取っていて下さい!」

いつも穏やかなナナミに怒鳴られ、マサキは渋々別室のソファーに横になる。
睡眠不足だったことも手伝ってすぐに夢の中に引きずり込まれた。



「…キさん、マサキさん?」

名前を呼ばれたのを聞いて、張り付いた瞼を無理矢理開くとナナミが覗き込んでいた。
むくりとソファーから起き上がるとふわんと美味しそうな匂いが鼻に届く。

「ご飯作りましたから、少しでも食べて下さい」

テーブルに並べられた料理を脳が認識したと同時に腹の虫が盛大に鳴いた。
無言でテーブルまで移動し席に着く。
いただきます、と手を合わせてから箸を掴んだ。うん、やはり彼女の料理は美味い。
並んだ皿を次々一人で空にしていくマサキをナナミは驚き半分可笑しさ半分で見ていた。

「マサキさんて、本当生活力ありませんね…」

洗濯物は溜めるわご飯は食べないわ睡眠はとらないわ、とナナミは困ったように言う。
正論なので何も言い返せずマサキは黙り込む。

「食事は作るの面倒やし、寝てしもたら起きられへんかったら大事やし…」
「世間の一人暮らしの方は皆同じ条件ですよ」
「う、そうやな…」

はぁ、と肩を落としてお茶を啜った。
空になった湯飲みを弄びながらぽつりと呟く。

「家事はしてくれるし料理も美味いし仕事も手伝ってくれるし、ナナミはんみたいな人が嫁さんやったらエエのになぁ」

言った後に本人が居たことを思い出してばっとそちらを見る。
模範的な嫁は湯気の立つ急須を持ったままポカンとしていた。
ぱちりと視線が合ってしまって先程の自分の発言が恥ずかしくなりテーブルに突っ伏す。
テーブル越しにクスクスと笑い声が聞こえた。


無意識プロポーズ


独り言じゃなくて、ちゃんと言ってくれたら考えるんですけどね。


しーさん宅のフリリクにてマサナナを頂きました!
マサキにはナナミさんがいないと駄目だと思うんだ…!だめんずさん!

しーさんありがとうございました!3万打おめでとう!

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