部屋一杯に満ちるのは煎れたての珈琲と焼きたてのお茶受けの香り。二つ並べられた陶器のカップの一つを受け取り、迷わず砂糖とミルクに手を伸ばすあたしとは対照的に彼はそのままカップを口元に運ぶ。
一切の甘味が排除された黒い液体を喉に流し込むその様子を見ているだけで口の中に苦味が広がる気がして、あたしは何時もより一匙多めに砂糖を取った。

「相変わらずのブラック派ねぇ」

白と黒が混ざったカップの中をティースプーンで掻き交ぜながらそう呟くと、翡翠色の視線がこちらを見た。
グリーンが甘い物を苦手としている事は周知の事実だし、無理に好きになる必要も無いと思う。それでもあたしの作ったお菓子は甘くても食べてくれるのだから変だ。嬉しいけど。
そんな事を考えながら自分のカップを傾ける。うん、甘い。
すると徐に彼が口を開いた。

「甘いのはお前だけで充分だ」

一瞬耳を疑った。しかし聞き返す事も出来ず唯グリーンの方を向く。グリーンはもう一度カップに口を付けてから続けた。

「珈琲が苦くてお前が甘い。それで丁度良いだろう」

鼓膜はどうやら正常に機能していたらしい。しかしその代わり全身がかっかと火照ってくる。そんな台詞だけでも効果は抜群なのに追い討ちをかける様に目を伏せながら微笑むものだから、あたしの心臓は完全にイカレてしまった。
手の中のカップに満たされた白く濁った黒の表面に波紋が生まれては消える。


置いてきぼりの珈琲があたしを笑う


嗚呼今直ぐこの甘い甘い液体を捨ててしまいたい!



相互記念でしーさんからグリブル頂きました!
やだ、グリーンかっこいい///
改めまして、しーさん、相互リンクありがとうございました!これからもよろしくお願いします
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