朝から雨が降っている。

「…はぁ」

梓はつまらなさそうに外を見つめる。今日の夜に天体観測に行こうって約束してたのに、生憎の雨で空は曇っている。

「折角月子と一緒に天体観測だって思ってたのに…。この雲じゃ空なんて見えないよね」
「そうだね」
「だから雨って嫌いだなぁ。あー、梅雨なんてなくなればいいのに」

梓のその言葉を聞いて私はひらめいた。そうだ!あれがあるじゃないか!!

「ねぇ梓!今から車出せる?」
「え?出せるけど」
「ちょっと行きたいところがあるんだ!」

そう言って私は梓を引っ張った。梓は状況が呑み込めていないようでどうしたの?って顔で準備を始める。梓は優しいからすぐに準備を済ませて車を出してくれた。車に乗り込むと、私はケータイを取り出す。

「何処に行くの?」
「え、わかんない」
「え!?わからないのに行くの?」
「とりあえず、雨の日デートってことで!」
「あぁ、わかった。で?何処に行ったらいい?」
「ちょっと待ってね」

私はケータイを開くととりあえず真っ直ぐ!と言った。カーナビと地図を駆使しながら行き先を告げる。それがなかなか難しい。ケータイでは雲の動きの情報を入手し、カーナビでどう行ったらいいか、全体を知るために車のポケットに入れている地図を使った。行き先は私でもわからない。でも、とりあえず場所を探す。もしかしたら無駄になるかもしれないけど、それでも行きたかった。

「ねぇ、ちょっと雨酷くなってきてない?」
「確かに…。梓大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ。それより、車の中で地図なんて見たら酔わない?」
「大丈夫。酔いそうになったら休むから」

そう返事をしてからまた地図を見る。さらにケータイを見つめてまたどっちかを言う。

「ねえ。まだつかないの?」
「うーん…わかんない。でも、結構近づいて来てるよ!」

そう言ってふと窓の外を見ると、私は思わず声を上げた。

「あ、着いた!!」
「え!?」
「ここ!ここだよ!!うわ、すごい!また見られるなんて!!」

梓は車を止めた。そこは海の近くの高台で、少し道路が広くなっているし、車通りも少ないのでそこに止めることができた。外は少し小ぶりになってきていて、傘をさすのも忘れて外に出た。すると梓が傘をさして車から降りてくると、私の隣に立った。

「月子、濡れるよ?」
「それよりも、ほら、あれ見て!!」

私は興奮しながら指をさすと梓はその先を目で追った。すると、梓も凄いと声を上げた。私が指差した先は、雨雲の端っこで、海から柱のように雲に延びるものも見える。

「雲の端っこ。あそこ見て。海に光が当たってるでしょ?きっとあそこには雲がなくて、雨も降ってない」
「綺麗だ」
「本当に。あそこの雲に延びているところがあるでしょ?あそこから雲になってるのかな?なんて前に見た時思ったの」

まさか、昔に見たときと同じ景色が見られるとは思っていなかったけど、やっぱり2回目でも見ても見入てしまう。水平線が奇麗に見えて、その先に微かに山が見える。

「私もね、雨雲って嫌い。星空をいつも邪魔してる。そう思ってたの。でもね、本当は違うの。雨雲も素敵。やっぱり星空が一番好きだよ?でも、全てのものが奇麗で、本当にどんな空だって、芸術みたいだってことを梓にも知ってほしかったの」

梓の方を見ながらそう言うと、梓は真剣にそれを聞いてくれた。そして私が言い終わると、梓は微笑んで、私の頭を撫でた。

「ありがとう、月子」
「梓とこんな素敵なものを共有したくて」
「僕って、月子に教えられることばっかりだなぁ。天才って言われてて、自分でもわかってた。だけど、それでもわかっていなかったこととか、知らないこととか、月子が全部教えてくれて」

昔のことを思い出すようにそう言われて、私は少し恥ずかしくなった。梓は頭を撫でていた手を肩に置いて、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「ありがとう」

もう一度大切にお礼を言うと、梓は離れた。それからもう一度空を見つめて、微笑んだ。

「でも、月子の美しさには負けるよね」
「っ!また、梓はそんなこと言う!!」
「ほんとだって。僕が嘘ついたことある?」

微笑みながらそう言うと梓はやっぱり小悪魔っぽい。

「ないけど」
「でしょ? あ、そうだ。折角この辺まで来たんなら、パフェが美味しい店があるからそこに寄らない?」
「ほんと!!行きたい!」
「じゃあ行こうか」
「パフェって聞くと、宮地くん思い出すね」

笑いながらそう言うと、梓はむっとした表情になる。

「彼氏の前で他の男の名前出すの?」
「え、あ、」
「だから心配なんだよなぁ」
「ごめんね?」
「そんな顔したら怒れないでしょ?」

そう言うと梓は周りを確認する様子も見せず、私に軽くキスをした。

「これで許してあげる」
「あっ、梓!ここ、道路だよ!?」
「いいの!これくらいのことしとかないと、通りすがっただけの人が月子のこと好きになったら困るし」
「大丈夫だよ、私…」

梓だけの彼女だよ?と言おうとして恥ずかしくなってやめる。すると梓は「私、何?」と絶対に続きが分かっているのに訊いてるって表情で訊いてきた。

「梓のばかっ…」
「あははっ、ごめんごめん。でも、続きは言って欲しいな」
「…梓だけの彼女だから…」

そう言うと、珍しく恥ずかしそうな顔をした。いつも恥ずかしいこと言ってくるから、その仕返しだ。とちょっと思った。

「…じゃあ、パフェ食べに行こうか」
「うん」
「宮地部長は抜きで」

梓はそう言って車に乗り込んだ。

「まだ根に持ってる?」
「いや?だって、月子が僕のことが好きだって自信あるから」
「、」
「それに、僕が月子を離さないし。月子は僕にたくさんのものを与えてくれたから。今度は僕が月子にたくさんあげる。今日の空、ありがとう」

そうお礼を言うと、私たちはまた雲を見て、車が発進した。


Its a beautiful world
(君にたくさんの)(美しさをあげる)


前サイトより愛奈さんからstskの梓月を!
愛奈さんの書く小説はどれもお砂糖みたいに甘くて思わず赤面してしまいます///
愛奈さん、ありがとう!

(100628)