自室が用意される、なんかここはすごい戦いの舞台らしい、魔術師ってなんかすごそう。
これらの情報と考えからみちるは勝手に、与えられる部屋は豪華絢爛だと信じ込んでいた。

なので2-Bに足を踏み入れた時、その中身に愕然とした。

「…マスター?どうかしたか?」
「え?いや、うん」

普通の教室だ!
豪華さなんて欠片も無い部屋に思わず脱力してしまう。
机や椅子が散乱し申し訳程度に赤布の掛けられたそれは、文化祭の後片付けを途中で放棄された空き部屋のようだ。

まあ、マイルームって名前からして、よく考えたら豪華さはないかもしれない。
そりゃあ、どこぞの王様や貴族のマイルームならこれはないだろうが、私は一般市民だし、この位が丁度いい気がする、と一人納得しかけていると、急に上から声が降ってくる。

「ほう、身の程がわかっているじゃないか」

私たちはお零れのお零れでこの聖杯戦争に参加できたんだ。まだ贅沢を言える身分じゃないだろう。
淡々と告げる自分のサーヴァントに、話の内容そっちのけでぎょっとした。

なんで考えてることがわかるのだとまじまじとアーチャーを見つめる。
そういえば、魔術回路がなんたらかんたら、という話をされた気がする。それを繋ぐと、胸内まで手に取るようにわかってしまうのだろうか。

「……マスター、大変言いにくいのだが」

みちるからの熱視線を一身に受け、どうしたものかと頬を掻くアーチャーが、ゴホンと咳払いをしてから種明かしをした。

「全部声に出ている」
「えっ!」
「どうやら君は、考えていることを全て声に出してしまう癖があるらしい」

それは知らなかった。と、思ったと同時になんだか自分の口も動いた気がしてハッと口元を押さえる。なるほど、これか。
アーチャーは気付いてくれたかと若干ホッとした表情を浮かべ、ようやくマイルームの探索に入る。
辺りを見渡し、とりあえずはここでいいかと椅子に腰掛けた。隣の机を肘置きにするらしい。

彼の定位置は決まったようだ。となれば、みちるも何処か探さねばならない。
ここを拠点にするということは、ここで寝起きをするということだ。なんとか寝床を確保しなければ。
キョロキョロと教室内を見て回ると、なるほど、教室に必要な物は全てあるらしい。どちらかというと教室に必要な物よりも寝所に必要な物が欲しかった。ムーンセルとやらはまったく配慮が足らない。

不意にロッカーが目に入り、なんとなしに扉を開けた。モップが入っている。
これを枕に…いやでも流石にモップは…しかしここはデータの世界なので、汚い訳ではないだろうし…。
結局最終手段として取っておくことにし、再び部屋に視線を戻した。

アーチャーはすでに寝入ったのか瞼が閉じられていた。
ぶっちゃけ、そこしかまともな場所はないよねこの部屋と恨み言のようなことを思うが、この世界で戦うのは自分ではなくサーヴァントだ。一番身を休めることのできる場所を彼が使うのは当然だろうとすぐに考えを改める。
しかしその場所、なんとか二人入りませんか。身を寄せ合えばなんとか入りそうじゃないですか。

「…私は別に構わんが」
「えっ!」
「君はその癖を直さねばならないな」

どうやらまた独り言を言ってしまっていたらしい。眠っていると思っていたアーチャーは狸寝入りだったようで、こちらに来たまえと手招きされる。
大人しく近寄るとグイと引っ張られ彼の膝の上に乗せられた。

「え!ちょ、アーチャー?!」
「君が言い出したのだろう?」
「そうだけど、それは冗談で…!」
「どうせこの部屋にここ以外に休める場所はない。諦めて身体を預けろ」

モップを枕に寝られても敵わんしなと意地悪く笑われたので、そこも聞かれていたのかと頬が熱くなる。
もうこうなったら仕方がない。その顔を見られぬように額をアーチャーの胸に押し付けて目を閉じた。

「…おやすみ」
「ああ、おやすみ、マスター」

平然なふりをして就寝の挨拶をしたけれど。
この葛藤まで声に出ていたらひどく間抜けだなと思ったところで、タイミングよくアーチャーが笑った。


マイルームでどうやって寝てるんですかこの子
(110821)