アリーナから帰還しマイルームへ帰る途中、タイガーに会った。これは丁度いい、と先日頼まれた依頼の結果を伝える。
タイガーが朗らかに笑い、これはお礼よと写真立てをくれた。
はあ、と曖昧に頷きながら覗き込んで、納まっている写真に度肝を抜かれる。

「たっ…藤村先生?!」
「うん?なあにー?」

思わずタイガーと言いそうになり、みちるは慌てて彼女を名字で呼び直した。
タイガーと呼ぶ生徒を探して来いと言われたのに、自分も呼んでいるとバレたら面倒なことこの上ない。

写真立ての中身を誰にも見られぬよう胸に押し付けてタイガーの顔色を窺う。
彼女はNPCだ。顔色が変わることも、ましてやそれがからかいの色を浮かべるなんてある訳もない。
ないのだが。

…どうして、そんなにいい笑顔なんだろう。
先ほどまで朗らかに見えていた笑みが、どうにも違う色を称えている気がして、その視線から逃げる様にみちるはマイルームへ帰った。

「おかえり、マスター。藤村大河の依頼は無事終わったのか?」

マイルームでは、当然のようにサーヴァントが出迎えてくれる。
タイガーに件の生徒に赴くように言って聞かせたことを伝えるだけだったので、先にマイルームに戻り休んで貰っていたのだ。

「ほう、今回は報酬があるのだな」

前回のただ働きを思い出し、よかったじゃないか、と素直に喜びの言葉をかけてくれるアーチャー。
その流れで、何を貰ったんだ?と疑問を投げかけてくるのも至極自然である。

だから、みちるは困っていた。

「マスター?」
「しゃ、写真立てを貰ったんだけどね、すでに写真が入ってて…」

相変わらず写真の面を自分の身体にピッタリと押し当てて、これではアーチャーも見るに見れない。
みちるはうろうろと視線を泳がせて、どうしようかと必死に考えを巡らせる。
そうして。

「か、返してくる!」
「は?」

ダッとマイルームから駆け出そうとしたので、アーチャーは反射的にその腕を取った。

「待て、マスター。君が返すというのなら反対はしないが、せっかくだ。私にも見せてくれないか」
「ええ…っ」

見せたくないから返すなどと言ったというのに。
本音としては、返すのも惜しいと思っているのだ。だって、せっかくの。

「これは…」

ツーショット写真なのだから。

「……」

アーチャーがフリーズしてしまったので、みちるは矢継ぎ早に言葉を浴びせた。

「あ、アーチャーはいつも姿消してるのに、なんで写真を…」
「……」
「これ、誰かに見られたら、アーチャーが普段姿を消してる意味なくなっちゃうよね」
「……」
「だ、だから、やっぱり返して…」
「ふむ、まあ、確かに誰かに見られるのはまずいな」

まったく無反応だったアーチャーが、みちるが返してくると言ったのと同時に反応してぽかんと瞬く。
しかし返答は最もなことだったので、だよね、返してくる、と写真立てに手を伸ばした。

ひょいと避けられた。

「しかしまあ、撮ったのはNPCだ。ネガが流失することもあるまい」
「でもそれ見られたら意味ないんじゃ…」
「マイルームの中に入って来れる敵などおらんよ。君が招き入れん限りはね」

だから、ここに飾る位いいだろう、と彼はカツカツと椅子兼寝具へ近寄り、その脇の机に写真立てを立て掛けた。
そうして定位置に座ると、いつものようにポンポンと膝を叩く。

「今日はいつもより長くアリーナにいて疲れただろう。早く寝るとしよう」
「う、うん」

すっかり彼の膝の上で寝ることが定着してしまって、今日も今日とて彼に抱えられ目を閉じる。
フッと暗くなったマイルームに、みちるは安堵の息を吐いた。

ああ、よかった。この暗さなら、無駄に熱を持ったこの頬を見られることもない。
ある意味、アーチャーが早く寝ようと言ってくれて助かったかもしれない。

だから、みちるは気付かない。
アーチャーが早く寝ようと言った理由も、アーチャーの頬の色も、何一つ。
何一つ気付かぬまま、いつもより早い彼の心音に疑問も持たずに耳を傾け、子守唄の代わりにして寝入った。


写真立てにテンションだだ上がりしました
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