出会って間もない頃だろうか、みちるが割とどうでもいいものまで怖がるので、何がそんなに怖いのかとアーチャーが尋ねたことがあった。
レオナルドは怖くないのに、ガウェインは怖がる。
慎二は怖くないのに、ライダーは怖がる。
サーヴァントが怖いのかと推測しみれば、緑のアーチャーは怖がらないし。
かと思えば、次はなぜか噴水に怯えている時もあって。
彼女の恐怖対象のボーダーがわからずに問えば、秘密の話をする様にひっそりと教えられた。

曰く、大きいものが怖いらしい。
マスター、サーヴァント、NPCに限らず、物にまで及ぶそうだ。

確かにガウェインは大柄だ。ライダーもまた、大きな女性と言える。
緑のアーチャーは、男にしては少々小柄な部類かもしれない。

そうして、緑ではない赤のアーチャーの方はと言うと、これまた長身の男だった。



「どうかしたかね」

アリーナからマイルームへ帰る途中、先を歩くアーチャーが階段を数歩上りみちるを振り返った。
みちるの足音が止んだので気にしてくれたらしい。
みちるはアーチャーの爪先から頭までをじっくりと眺め、やっぱり大きいなあ、と心の中で呟く。

「マスター?」

数段上にいた彼は、動こうとしないみちるを訝しげに見つめて階段を下り彼女の横に立った。
その際自然に身を屈め、みちると目の高さを合わせてくれるのはもう慣れた行為だ。

いつだったか、みちるがぽろりと零した「大きいものが怖い」という言葉を、彼はきちんと覚えている。
そうして、いつだってみちるを怖がらせないよう彼はその大きな身体を折り曲げていた。

「アーチャー」
「うん?」

なんだねマスター、と更に小さくなろうとするアーチャーの腰にぎゅっと抱きついた。反動で彼の背筋がしゃんと伸びる。

「ま、マスター?」
「やっぱり、アーチャーおっきい」

みちるの背中で、どうしようかとウロウロしていたアーチャーの手がピタリと止まった。
背に回りそうだった二本の腕は結局回されることはなく、片方だけはかろうじてみちるの頭に辿り着きそこに落ち着く。

「…すまないな、身体を縮めることは出来そうにない」

謝る声がなんだか悲しそうで、ぽんぽんと頭を撫でるその手も、触れることに躊躇っている様だった。
ここでみちるは、ようやく自分の意図することが伝わっていないのだと気付く。

「ううん、違う」

アーチャーの胸に押し付けていた顔を上げて、下から彼を見上げた。

「アーチャーはおっきくても、好き」

安心するから、好き。
だから、もっと背筋を伸ばして、胸を張っていいんだよ、と言葉を続ける。

「…マスター…君はまた、そういうことを平気で…」

大きいものは、怖い。
だけど、大きいアーチャーは、好き。

特別を与えられたサーヴァントは、さっそくその特権を利用すべく、力いっぱいマスターを抱きしめた。


大きいものが苦手なのは我が家設定
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