誰もが気にかける少年を、当たり前のように俺も気にかけた。
全国区の選手たちを次々に倒し魅了していくその姿はまるで天使か悪魔のようで、我ながら陳腐な例えに失笑する。

あの跡部が、彼を見つめて柔らかな笑みを浮かべた。
上下関係にうるさく、出る杭は即刻打つような真田ですら唇の端の歪みを隠しきれなかった。
手塚はもちろん彼を特別視して、その小さな両肩に自校の未来を託した。

ああ、これだけの要素が揃って誰が気にせずにいられるだろうか。
おまけにいちばんのエレメントは、この俺が彼に敗北を喫したことだ。そう、この俺が!



「やあボウヤ、奇遇だね」
「幸村サン」

神奈川と東京との距離くらい、俺には何の障害にもなりはしない。
なんでいるんスか、とでも言いたげなそのしかめっ面に笑みはますます深くなる。

「ちょっと野暮用でね。ボウヤは?」
「部活帰りッス。ねえ、その野暮用とやらはもう終わったの?」

次に出てくる言葉が手に取るようにわかった。

「まだだけど、時間はあるよ」
「じゃあ、」
「ラケットはふたつあるかい?」

一瞬呆けた彼がニヤリと笑う。わかってんじゃん、と楽しそうなその表情は年相応だ。
年相応のその表情が、俺にも、真田にも跡部にも、そして手塚にも眩しくてたまらないのだ。

そう、俺たちは強かった。テニスが好きで、楽しかった。
早々と上に立つ者になってしまった俺たちには、眩しい何かが足りなかった。
高みを目指した俺たちが求めていたものは、自分を追い掛けてくる次世代だ。

「ボウヤに付き合ってあげる代わりに」
「何?」
「俺の野暮用にも付き合ってよ」

返事を聞く前に彼のテニスバッグを掻っ攫う。
先程ここを通る前に見つけたストリートテニス場への道筋はしっかりと覚えていた。

「ねえ、野暮用って?」
「試合が終わったら教えてあげる」

もったいぶらなくてもいいじゃんと唇を尖らせる彼を笑う。
試合が終わるまでにそれらしい用を考えなければと思っている自分が可笑しくて、それにも笑った。


未来と名付けたその子供。
(時代が移ろっていく。彼を中心に)


みんなリョーマくんが可愛くてしゃーない
(110904)