「寒くないの?」
「…寒くないの」

惜しみなく露出させた色白の足を温めるようにさすり合わせながら、トウコは口をへの字に曲げた。

秋というものは唐突に姿を現す。
たとえば、風はちょっと冷たくなる。日影はこの間まで涼める絶好のスペースだったのに、今は少し肌寒くていたくない。刺すような日差しはすっかり柔らかくなって、小まめに日焼け止めを塗り直さなくちゃと使命感に駆られることもなくなった。決定的だったのはやはり先日まで緑だったシキジカの色が変わっていたことだろうか。
秋が来た。まごうことなき秋である。
秋はあまり好きじゃない、とトウコはため息する。

「トウヤくんはもうすっかり厚着だね」

冬みたいな装いだと告げたら、寒がりだからつい秋のうちから着込んじゃうんだよねとトウヤが苦笑した。
夏の間も羽織っていたパーカーは厚めのものに変わっているし、冬支度が早すぎるようにも感じる。

「トウコちゃんは暑がりだっけ」

再び話の中心が戻ってきてトウコは、う、と言葉を詰まらせた。
確かに。確かに暑がりだけど、10月にこの恰好はさすがに寒すぎる。
それが重々わかっていてもショートパンツを穿き続ける理由がトウコにはあった。

「…確かに生足はもう寒いけど」

トウヤを見る目がじっとりとしたものになったのも致し方ないと、トウコは自分に言い聞かせる。
だって、トウヤくんが悪い。トウヤくんが――たとえ無意識だったとしても――あんなことを言ったから、そうじゃなければこんなに気にすることもなかったのに。

「…ショートパンツ似合うねって言ったの、トウヤくんだよ」

肌が白いからかな、なんて笑いながら。
夏の始め頃に言った言葉はきっと彼の記憶には残っていないのだろう。
けれどもトウコはしっかりと覚えていた。それほど嬉しかったのだ。

トウコの拗ねたような声にトウヤはきょとんと瞬きする。
それから、言外の意味を読み取って、ええと、とこてりと首を倒した。

「俺のために穿いてくれてたの?」
「っ、そうだよ!10月に生足なんてすっごく寒いんだから!」

黙っていればいいものを、わざわざ確認してくるものだからトウコは半ばヤケになって返事する。
誰のためかなんて一度で察してほしい。元よりここにはトウヤしかいないのだから、彼のため以外であるはずがない。
トウヤが少し考えるみたいに手を口元に持っていった。
そうしてにっこりと笑う。

「――トウコちゃんって、タイツも似合いそうだよね」

俺、見てみたいな。
ぽかんとしたトウコが、意味を理解してじわじわと頬を染めていく。

「……今度、穿いてくる」
「うん、ありがとう」

変わらずニコニコしているトウヤの顔が見られなくて、トウコはふいと視線をそらした。
それを許さないトウヤがその頬に手を添える。

「寒いのに無理しちゃだめだよ、俺トウコちゃんならどんな恰好でも好きだし」
「…そういうのずるいと思う!」

ああ、やっぱりトウヤくんには敵わない。
観念して、トウコはずるずるとへたり込んだ。

秋も嫌いじゃないかもしれない。
(あなたが好きって言ってくれるのなら!)


(121018)