うつらうつらと舟をこいでいることは知っていたが、もたれかかってくるほど眠いとは思いもよらず日吉は思わず瞬いた。
「おい」
「ごめん、昨日夜遅くて…」
部誌書く邪魔はしないようにって思ってたんだけど、と弱々しく笑われたら、いくら日吉だってどけろとは返せない。
惚れた相手ならなおさらだ。
「…そんなに遅かったのか」
「うん、もうすぐコンクールだから」
先輩たちが退部し、2年を中心に動き始めた氷帝テニス部。
日吉はその部長として日々頑張っているが、鳳もまた違う形で毎日努力している。
日吉が前部長に劣らないようと気を張っていると、毎回横へ腰掛け柔らかく笑うのだ。
“俺たちは、俺たちのテニス部を作らなきゃね”
言われるたびに、気負っていたのだとハッとさせられていた。
そんな鳳は今、ピアノのコンクールを控え猛練習をしているところらしい。
日吉は音楽には詳しくないが、単純に鳳のピアノは好きだと思う。
優しさが滲み出ているのだろうか。
“好き”という気持ちが滲み出ているのだろうか。
「あー…だめ。日吉、ちょっとだけ膝貸して」
「馬鹿か」
肩は甘んじてやってもいいが、膝まで貸してやるつもりはない。
ここは部室だし(いや、部室じゃなかったらいいというわけでもないが)恥ずかしさの方が強かった。
「膝を貸せなんて、ジローさんみたいなこと言うな」
軽口の延長でついた言葉に思いの外鳳が反応する。
「ジロー先輩に言われたの」
「は?」
「膝枕してって?」
笑う余裕もない鳳の表情に、つついてはいけない話だったらしいと後悔した。
しかし今さら取り消せるわけもなく、弁明するように言葉を紡ぐ。
「言われたが、」
「したの?!」
「するわけないだろ」
よかった、とホッと笑った鳳に、日吉の方こそホッとした。
そのあと、鳳が拗ねた表情を作り文句を言う。
「せっかくふたりでいるのに、他の人の名前なんて出さないでよ」
その顔に思わず怯んだ。
確かに、デリカシーがなかったと言われればそうかもしれない。
何か言うべきかと考えあぐねている日吉に気づかずに、鳳が小さくあくびした。
そのまま、肩から頭をずり落とし膝に乗せる。
「ごめん、部誌書き終わるまで寝かせて」
言うや否や立ち始めた寝息にため息をつく。
「お前は…」
せっかくふたりでいるのに寝るなよ、と先程の仕返しみたいに言ってやろうとして、恥ずかしくなってやめた。
そっと一息。
(つく場所は、互いに互い)
日吉おたおめ!
(111205)