「日吉が、とうとう同い年じゃなくなるんだあ…」
「うざい」
「ひどい!」

べそりと表情を崩す鳳に、日吉はもう一度悪態をついて頭を叩いた。
今日だけで何回聞いただろう。いい加減――と言いながら、日吉は一度目の時点でそうなっていたけど――うっとうしくもなる。
鳳は早生まれなので、大抵の同級生よりもわずかに年下である。
日吉もクラスメイトたちと比べると誕生日は遅めだが、鳳ほどではない。そのため鳳と違い年を越す前に十四歳になるのだが、どうやらそこに言いたいことがあるらしかった。

「俺より年上になっちゃうんだ…」
「当たり前だろ」
「日吉俺よりお兄さんになっちゃうんだ…!」
「何なんだよお前今日!」

人の誕生日を目前にこんなにめそめそされては敵わない。
大きなため息をついて日吉は鳳と向き直った。
本当に、朝から散々言われ続けているのだ、こればっかり。
今まで――ただいま十一時ピーエムを優に超えている――延々と!

「だって、十三歳の日吉とは今日でもうお別れなのかと思うと何か色々考えちゃわない?」
「お前が考えるなよ」
「俺、ちゃんと十三歳の日吉を余すとこなく愛せたかなあ、とかさ」

さらりと零された言葉に、日吉は、う、と言葉を詰まらせた。
鳳はいつも、こういう恥ずかしいことを何でもないような顔で言う。まるでいちいち反応する自分がおかしいみたいに、自然に、するっと落とされる言葉の数々を、日吉は未だにうまく受け止められないでいた。

「…そんなことを考えるの、お前だけだろ」
「俺だけじゃないと嫌だよ」

苦し紛れの返しは、鳳によって一蹴される。
日吉だってこんなうっとうしい愛情、相手が鳳でなければ耐えられるわけがないのだ。
…ということは絶対言ってやらないし教えるつもりもない。常に示さないと通じないなら、そもそも自分とやっていけるはずがないだろうと、日吉は上から目線のようだが思っていた。

「…もう寝る」

いたたまれなくなって逃げるように寝室へ歩き出した日吉を、待って待ってと鳳が引き止める。
ぎゅっと抱きしめられて足止めをされれば動くに動けず――何せ鳳の長身はフィジカル勝負になるととても有利…もといやっかいなのである――日吉は大人しく足を止めた。
言われた言葉もまた、振り払えない原因のひとつである。

「十三才の日吉は今日で終わりだから、最後までいたいんだ」

常には愛情を示さないからといって、日吉は別にいつも示さないわけじゃない。
ましてや好きな人のいじらしい思いに心が揺れないほど冷淡に徹してられるなんてこともなく、無言ですとん、と座り直した日吉に鳳は嬉しそうに抱き着いた。
何も言わずとも日吉は他の部位が雄弁で、ゆらゆらと揺れる瞳は必死に言い訳を探していたし、赤らむ頬を見れば照れていることは明白だ。鳳はそれを見て表情をゆるめる。
鳳は知っている。日吉が愛情を表現するのが苦手だということも、恐らく日吉自身は知らないであろうが、彼は言葉にしないだけでそれ以外のものでたくさん好きだと言ってくれていることも。
そこも好きなんだよ、と鳳はこっそり思っていた。もったいないから日吉にも教えたことはないけど、いつか教えてあげられたらいい。

時計の針が限りなくてっぺんに近づいて、鳳はそっと日吉に口づけた。十三歳最後の彼は慌てて目を閉じてそれを享受する。
いつまで経っても初々しさは健在だ。

「…日吉、誕生日おめでとう」

唇を離したとき、鳳の目の前にいたのは十四歳の日吉だったのだけど。
赤らんだ頬に睨みをきかせるその様は、当たり前に十三歳の頃となんら変わりなくて鳳は笑った。

鳳と。
目慣れたおまえがいなくなり/新たなおまえが顔を出す/五千百十三回目の日をまたいで

(121205)