家についたら、押し倒された。
呼ばれてきてみたらなんだこれは、と日吉は知らずにため息をつく。
「あ、ため息。ひどいな、目の前にこんないい男がいるのに」
「いい“男”にされてるからついてるんじゃないですか」
確か滝は今日、大学の飲み会だったはずだ。
そんな理由で事前にアルバイトのシフトを調整していたのを覚えている。
こちとらアルバイト帰りだったと言うのに、今すぐ来てと言われたから急いで走ってきたわけだが、こんなことなら無視して帰って寝ていればよかった。
滝のリビングテーブルの上に、グラスと缶ビールが一本。
グラスは空。しかし、テーブルより視界が低いこの状態で缶ビールが空いているかなんてわかりやしない。
とは言え飲み会帰りだ。そう思えばこのふざけた行動も理解できる。
「滝さん」
「ん?」
「あなた、酔ってるでしょう」
滝が一瞬ぐにゃりと顔を歪ませて、そのまま自然に笑った。
「やだな、酒臭い?」
匂い移っちゃったかな、なんて、まるで飲んではいませんとでも言うような言葉。
「あなたそんなにお酒強くないんだから、あんまり飲みすぎないで下さいよ」
「失礼な。もう大人なんだから加減くらいできるよ」
「どうだか」
ムッとした滝が、急に艶やかな表情になった。
日吉が、寄せられる唇から逃げるように顔をそむける。
「ちょっと滝さん、だから酔って…」
「日吉が、俺が酔ってるって思いたいなら思ってもいいよ」
その選択肢の与え方は、ずるい。
滝はいつもこうやって、逃げ道を作った上で日吉を追い詰める。
酔っ払いの戯れ事だと、わかっている。
それでもいいと、日吉は静かに目を閉じて、唇に降る柔らかな感触を待った。
そうだ、酒のせいにしよう。
(明日になれば忘れてしまえる、そんな都合のいい嘘に)
ツイッターの診断メーカーにて『滝さんに日吉が不意に押し倒されたときの反応は→「君、酔ってるでしょう?」』の結果に悶えて書いたもの
(110701)