「あ、」

気づいたら身体が動いていた。



「あっ!リーダーがっ!」

呆然として立ち竦む戦闘メンバーに、慌てた様子の風花の声が耳に入る。
それでようやく我に返った彼らを尻目に、怪我した張本人である錦がシャドウの懐に飛び込み両手剣を振り上げた。
黒く霞むシャドウが完全に消え去るまで見つめて、それから。

「…大丈夫か?」
「ッ、それはこっちの台詞だっつの!」

こてりと首を傾げた錦に、順平が深く溜め息した。



パーティーレベルを底上げしようと錦が言ったのは、ここ数日風邪をこじらせ寝込んでいたゆかりと順平のためである。
テストにイレギュラーにと様々なことが重なって、二人は先日とうとう体調を崩した。その間にタルタロス探索は進み―――平たく言えばモナドへの扉が開き―――二人と他のメンバーの間に歴然なレベル差が生じてしまったのだ。

効率的にレベル上げするべく三人でモナドへ潜り込んだはいいものの、そこは魔窟で。
ゆかりも順平もヘトヘトになり、その隙を突かれシャドウからマハジオダインを貰った。
ダウンしたゆかりにシャドウは更に電撃を浴びせようとして、飛び込んできた錦が代わりにそれを食らい仕留めたのが冒頭である。

「あ、ありがとう…」

トリップして転んだままだったゆかりは、そう絞り出すと錦の手を借り立ち上がった。
そうしてしばらく震える手を握りしめて俯く。そのまま口を開いた。

「…なんで助けたの」

次に顔を上げた時、ゆかりは大層ご立腹だった。

「なんで庇ったりしたのよ?!」

声を荒げたゆかりに順平が驚く。
助けて貰っといてそれはねえだろ、と咎める順平すらゆかりは睨み、せめてもの恩返しか借りを返すつもりか、はたまた彼女の気が済まないのか錦にディアラマをかけた。

「だって、君はリーダーなんだよ?!私たちが庇うならまだしも、庇われるなんて、」

ぐっと下を向いたゆかりの気持ちがわかるのか、順平も閉口する。
戦いにおいてリーダーは要だ。現場で指示を出す彼がいなくなればパーティーはあっという間に壊滅する可能性だってある。
だと言うのにメンバーを庇うなんて、判断ミスもいいところだ。
だけど、その判断をさせてしまう程頼りない自分にゆかりは苛立っていた。

一方リーダーは、そんなゆかりに困ったように頭を掻く。
だって、所持ペルソナは食いしばりを覚えていたし、あと一撃で倒せたし。大体、レベルの低い彼らを無理やり強化するべく今日は来たのだから、このくらいの怪我は予想の範囲だった。

さて、なんと言えばゆかりは納得してくれるだろうか。
リーダーだからと言えば先程言われた旨で怒られるだろうし、男だからと言えば、それはそれで怒られるだろう。
女だからって舐めないでよと更に怒るに違いない。

「何か言ってよ!」

激昂する彼女を見つめる。もうあれこれ考えるのもめんどくさい。
どうせ理由など一つしかないのだ。

「好きだから」

庇うのは、仕方ないだろ。

言うは難し行うは易し
(口にする方が難しい)


(120306)