夏を実感させるようにセミが鳴いていた。
稲葉にいた頃はよく耳にしていたそれは、都会では少し大人しく感じる。ミーンミーン、と静かな片田舎によく響いていて、真夏の晴れた日は特にすごかった。BGMとして聞きながら、よく仲間たちとジュネスで顔を突き合わせたものだ。

海に行きたいねとりせが言って、じゃあ次の休みにとカレンダーに丸印を記したのは、確か一週間くらい前だったか。
すごく喜んで、楽しみだと喜色満面で飛び跳ねたりせが脳裏をかすめる。
新しい水着を買うんだと意気込んでいたのも覚えているし、先輩、一番に見てねと可愛らしくお願いされたのも記憶に新しい。

「あ、おかえり、先輩!見て見て!今年の新作なの!」

しかし、まさか玄関のドアを開けたら水着姿のりせが待っているとは思わなかった。

「この間モデルしたブランドが、水着も取り扱っててね、プレゼントしてくれたの。ね、可愛い?」

そう言ってりせはその場でくるりと一回転をする。
びっくりして瞬いたものの、すぐに笑みを浮かべ頷いた。

「うん、似合ってる。可愛いよ」
「ほんと?嬉しい!」

靴を脱いでようやく家へ上がれば、りせが駆け寄りその腕に抱き着く。
似合っていると思ったことも可愛いと感じたことも、心からの感想だ。
ただし、えへへ、と褒められてはにかむ彼女に一言付け加えねばならないことがあるのも事実だった。

「でも、」
「ひゃあっ!」

大きく開いた胸元に噛み付くと、驚きからりせが飛び跳ねる。
鬱血を残せば、彼女のキャパシティを超えてしまったのかフリーズした。

「肌が少し見えすぎなのが頂けないかな」

ここまでは覆って、と唇を寄せた名残を撫でる。
先程は赤くなり損ねたりせの頬が今さらながらに朱に染まって、ばか、と小さく呟かれた。

夏の隙間
(落ちてしまいそう)

初めは夏の谷間だったけど、水着話で谷間はいけない気がした
(120321)