つやつやのグロスを唇に塗る。マスカラはたっぷりと。下まつげにも忘れずに。
鏡の前でとびっきりの笑顔を作ると、「りせちー」の出来上がり。

(…やっぱりせちー可愛いじゃん)

意図的に上目遣いをして二、三度瞬きをすると、鏡から目を離して時計を見やる。七時三十分。そろそろ先輩が来る時間。
昨日、無理矢理取り付けた約束。


―――「ね、先輩。明日の朝りせの家に迎えに来てね?…いーからっ、はい、けってーい!」


先輩は苦笑いをして私の頭を撫でて、最後にはしょうがないなって言ってくれた。

(だって、一緒に登校してみたかったんだもん)

みんなで登校するのだって、嫌いじゃないけど。
独り占めしたいって思うのだって、恋する女の子なら当然でしょ?

(いっつも花村先輩が横にいて隣を歩けないんだからっ)

花村先輩と逆の方の隣は、雪子先輩。
思い出して軽く落ち込む。

(…やっぱ、先輩の本命は雪子先輩なのかな)

先輩は顔が広いから、いろんな人とよく一緒にいるけれど。
最近、雪子先輩を見る先輩の目は、なんだか違うように見える。
女の、恋する男への勘。

「りせ、先輩がいらしたわよ」
「はーい!」

玄関に出て、先輩に会ったら。
おばあちゃんが見てることも気にせずその腕に抱きつこう。
先輩は苦笑いするかな、きっと。
それでも、その手を振り解かないでくれたら。
そしたら、腕を組んで登校して。

「今日だけは、私の先輩でいてもらうんだから」

雪子先輩にも負けない。
恋は、戦争。


恋は戦争。
(戦うのよ、これは―――)


雪子とは別に何もなくて、雪子コミュ終盤辺りの出来事を主人公が心配して見つめているだけです
(100515)