編み物を教えて欲しいと頼んだのはほんの思い付きだった。
なんとなく、出来たら女の子らしいかなと思っただけだ。夏目へのアピールにもなるのではと下心もあった。
ただ、講師が悪かったらしい。

「だー!そこさっきも言っただろうが!編み目飛ばしてっぞ!」
「もー、うっさい完二!だって難しいんだもん!」

鬼講師だ、と涙目になりながら心の中で悪態をつく。頼んだのはこちらだが、あいにくそんなに真剣に考えていたわけではない。
放課後の教室はがら空きで、校庭から少し騒がしい声も聞こえてきて、りせはその空間を割と気に入っていた。
だから、編むならここかなと思ったのだけど。

「先輩はもっとうまく編んだぞ」
「うそ!先輩編み物できるの?!」

新事実に驚きの声を上げると、少し前に編み物教室をしたのだと告げられる。正直余計なことをと思った。先輩に教えないで私に教えてくれたらよかったのにと非難の目を向けるも、完二はとても鈍いのだ。何見てんだ、手元見ろ手元と逆に怒られてしまった。

「…先輩、うまいの?」
「テメェよりかはな」
「じゃあ、練習してるって先輩には内緒にしといて」

せめて先輩レベルまで上達したら明かそう。今はあまりに拙くて恥ずかしい。
鈍感な完二に女心を汲めというのは無茶だったが、目力が怖えと言われながら頷かせた。
頭をガシガシと掻きながらため息をつく。

「しゃあねえなあ。先輩には黙っといてやるよ」

「何を?」

振り向けば、ニコニコと―――だけどどこか不穏な笑みを浮かべる夏目がいた。



あれから、固まった完二にひとこと「連れてくよ」と声をかけ夏目はりせを連れ出した。
りせの手を引き夏目が向かった先は彼の下宿先である堂島宅で、自室に入るなり抱きしめられる。

「せ、先輩…?」

怒ってる。というか、不機嫌?
おそるおそる呼べばごめんと謝られる。引っ張ってきて手は痛くなかったかと尋ねられ、そこは優しいいつもの先輩だとホッとした。

「それは大丈夫、ですけど」

聞きたいのはそれよりも連れ出された理由だ。
りせの疑問を夏目も理解していたのだろう。ぽつりぽつりと漏らされた言葉にりせは驚愕した。

「完二と、仲よさそうにしてて、つい」

身体が勝手に、とばつの悪そうな顔の夏目。
驚きで目を瞬かせる。

「先輩でも妬くんだ…」
「俺をなんだと思ってるんだ」

信じられないという風なりせに夏目は情けない表情で笑うと、抱き締める力を強める。くすぐったげに笑う彼女の髪に顔をうずめた。

「俺だって、好きな子が他の男と仲よくしてたら嫉妬だってする」

いくら相手が完二でもな、とつけ加えたのは少し照れたからだろうか。
自嘲の笑みを浮かべる夏目にたまらなくなった。

「…あんまり妬かせるようなことはしないでくれ」
「あの、あれはね」
「完二に何かを習ってたんだって、わかってるけど」

見透かされていて、おまけにそれが的中しているのだから流石としか言いようがない。
編み物だったら俺でも教えてあげられるよ、と習いごとの内容まで言い当てられてしまって。

「…お願いします」
「はい、お願いされます」

先輩にあげるものを本人に習うってどうなんだろう。
そう思いながらも、楽しげな夏目の表情を見たら、まあいいかと思えてしまう辺り、どうにも。


ベタ惚れじゃありませんか!
(でも、完二にはかわいそうなことしちゃったな)


晨さまリクエスト「主りせ」でした!
ラブラブで番長の嫉妬とのことでしたが、ラブラブ…?
し、嫉妬の方に力を注いだつもりです…!

晨さま、リクエストありがとうございました!

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