日本語って難しい。
ずっとドイツで過ごしてきた私には馴染みのない言語だし、今までお母さんも教えてくれたことがなかった。

「将…?」
「あ、イリオン」

コンコン、とノックをしても返事がなかったから、悪いかと思いつつそっとドアノブを回して中に入る。
ノックに気付いてなかったらしい将は本から顔を上げてこっちに笑顔を向けた。
思わず顔が赤くなるのをせきでごまかして将の手元を覗き込む。

「なにを読んでいるの?」
「日本にいた頃読んでた本だよ」

覗き込んだそれは日本語でうまく読めない。
喋るのに不自由なくなったのだって最近で、読み書きのほうはまだまだだったりする。

「どんな話?」

そう聞くと、中身を噛み砕きながら説明してくれる将。
その中のひとつの単語が気になった。

「で、その子はラブレターを出すんだけど…」
「ラブレター?」

思わず反応して聞き返したら、うん?と将が首を傾げる。

「あれ、ドイツにはないの?」
「ううん、あるわ。ねえ、お兄ちゃんもラブレターを貰ったことあるのかな?」
「うーん、どうだろう」
「…将は?」

本当は、お兄ちゃんが貰ったことがあろうとなかろうとどっちでもよかった。
ごめんなさいお兄ちゃん。イリオンは将が貰ったことがあるのかどうかが聞きたくて、お兄ちゃんをだしにしました。

「僕?僕はないよ」

あからさまにホッとため息をついちゃった私に気付かずに、将が言葉を続ける。

「でも、貰ったらきっと嬉しいよね」

こんな僕でも好きって言ってくれるなんて、と言って笑う将の笑顔に、心臓が早鐘を打つ。
ああ、好き。

「そういえばイリオン、どうして僕の部屋に?」
「、なんでもない!じゃあね将!」

当初の目的なんて忘れてしまった。
ただ今は、お兄ちゃんのところへ駆けるだけ。

「お兄ちゃん、日本語で好きってどう書くの!」


ラヴレター
(?!イリオン?!誰に書くんだ…!)
(将に決まってるでしょ!)


title→joy
(101219)