本日は猛暑日になるでしょうというニュースの声を聞きながら、レッドは髪から伝った雫をタオルで拭った。
なるほど猛暑日か。道理で今日は一段と暑いわけだ。比較的暑さに強い自分が耐え切れず朝からシャワーを浴びるくらいなのだから、グリーンはもっとひどい有様だろうとレッドは苦笑いをする。
暑さに強い代わりに寒さにはめっぽう弱い自分とグリーンは真逆だ。
だから夏は大抵不機嫌で、不用意にくっつけば辛辣な言葉と共に距離を取られる。

「体温が高いから嫌だなんて言われても、どうしようもないよなあ」

昔そう言ってグリーンから拒絶されたことを思い出して笑う。
今日のグリーンはすこぶる機嫌が悪いだろうなあと思いながら、ポケギアでいつもの名前を呼び出した。



レッドの予想とは裏腹に、今日のグリーンは機嫌がよかったように思う。
ただでさえ暑さに弱いグリーンをいつもより暑い日に外に連れ出すのはかわいそうだと、遊びに行く予定をトキワジムでのんびりすることに変更しようかと電話したら、少しの沈黙の後にそっちに行くと返事された。
え、と思う暇もなく通話が切られる。
この暑い日にリザードンに乗ってくるのはグリーンにはつらいのではと思ったのだが、レッドの心配通りに、レッド宅に着いたグリーンはさっそく暑さに参っていた。

「わー！ごめんな！俺がトキワジムに行こうと思ってたのに…！」
「構わん。…ただ、風呂を借りていいか」

したたる汗を手の甲で拭いながらそう言うグリーンに、それはもうもちろん好きなだけ使ってくれと風呂場へ案内する。
着替えの服を見繕っている際に、レッドはハタと今の状況に気付いた。


――恋人が二人きりの自分の家でシャワーを浴びている！


気付いてしまえばとてもおいしいシチュエーションだ。何せ、自分も先ほど風呂に入ったばかりなのだから！

バスタオルの上に置いておいたレッドの洋服を着たグリーンが、すまないなと言いながら脱衣所から出てくる。
リビングのソファに腰を下ろして一息ついたところでレッドから名前を呼ばれた。

「なん、」

振り向き様に唇を奪われた。
顎をすくわれ、上向きのまま身体が後ろに傾く。

「……おいレッド」
「俺の家でシャワーとか浴びちゃうグリーンが悪い」

悪びれる様子もなく言い放ったレッドにため息はつけど、それだけだった。
そんなグリーンにレッドはあれ、と拍子抜けする。

普段ならもっと抵抗して、調子に乗るなだの昼間から盛るなだの、特にこの時期は暑いから退けとも言われるのに。
小言もなければそれらしい拒否もされずに不思議に思う。今日は暑いが、シャワーで汗も流した後だし機嫌がいいのだろうか。

「えーと、グリーン？」
「なんだ」
「いいの、して」

もっと嫌がるかと思ってたというニュアンスを含む物言いに、グリーンが逡巡したのち口を開いた。

「…今日は、お前の誕生日だろう」
「え？」
「だから、いい。今日は“嫌だ”とは言わないから」

言われ、思わずカレンダーを見やる。確かに今日は8日で自分の生まれた日だ。
なるほど合点がいった。グリーンが抵抗しないのは、今日が自分の誕生日だかららしい。

「…なーんだ」
「レッド…？」

笑いながら自分の上から退いたレッドに、今度はグリーンが不思議そうな顔つきになる。
先ほどまで、確かにレッドは自分と事を致すつもりでいた。それがどうして急に離れていくのか。

「だって、“嫌だ”って言わないグリーンを無理に抱くなんて出来るわけないだろ？」

グリーンの嫌がることはなるべくしたくない。
でも、今日のグリーンは「嫌だ」と言わないつもりらしい。
それなら、何が嫌で何がいいのか、まるでわからないではないか。

いやまあ確かに、いくらレッドでもグリーンが照れ隠しで発する「嫌だ」と本気の拒絶の違いはわかるのだが、問題はそこではないのである。
拒絶をしないことが誕生日プレゼントなどと言われては困る。
レッドは一度だってグリーンに本気の拒絶などされたことはないし、またもし自分の行いで嫌なことがあれば遠慮なく言ってほしかった。

だから、身体を繋げるのはひとまず今日はいい。
誕生日とわかってグリーンが自分に会ってくれただけで大満足だ。

ちゅ、ちゅ、と額と目尻に唇を落としながらそう言えば、グリーンがしかめ面をしたまま大きなため息をつく。

「…ヘタレめ」
「失礼な。グリーンが大事なんですー」
「先ほどの言葉だが、訂正する」
「ん？」

グリーンが自分の頭に添えられていたレッドの手を取ると、そのまま噛み付くようにキスをしかける。
驚き瞬くレッドに言ってやった。

「今日は、嫌がるふりはしないから」

さあこれでいいだろう。らしくもなくごちゃごちゃ言ってないで、さっさと求めてくればいい。




レッドさん誕生日おめでとう！
(120808)