みにくい気持ちを振り切るように、私は激しく頭を振った。
冷水でも浴びて少し冷静になればいい。とはいってもまだまだ寒いこの時期にそんなことは自殺行為で、実行するのははばかられる。
どうしようもなくなって、ただただ胸の中が黒いもので溢れていくのをじわりと感じた。

ときどき、どうしようもなく苦しくて、やり場のない怒りに襲われる時がある。
私があなたを好きだったこととか、ひっそりと気付けばいいと思っていたこととか、それでもやっぱり怖くて最後の最後には誤魔化して笑ってしまっていたこととか、あなたはとうとう何一つ気付かなかった。
あなたが鈍いわけじゃない。普通は気付かない、そんな風な愛し方をしてきた。ひっそりひっそり、思いをぶちまけることもなく、静かな恋をしていた。不器用な愛だ。伝わればいいと思いながら、伝わってあなたに迷惑がられることをなによりも恐れた。
好きだった。愛していた。恋しかった。どれもこれも、一つだってあなたに言ったことはなかった。

恋という字は、割と最近できた漢字らしい。
昔は孤悲と書いていたそうだ。孤独で悲しいと書いて恋。今の私にぴったりだ。
そう、今私は、孤独で悲しい。あなたに隣にいて欲しかったのに、あなたは行ってしまった。だから、悲しい。
もしも私が、あなたに孤独で悲しいと言ったら、あなたはここにいてくれたのだろうか。私の隣に腰を下ろして、しょうがないなあと笑ってくれたのだろうか。あなたを思うと孤独で悲しいのだと伝えることができたなら、そんな気持ちを抱いているのだと告げられたなら。
私は、あなたは、今頃どうなっていたのだろうか。



「どうしたの?」

首を傾げてあなたが問う。どうしたの、なんて今更。
ずっと前から、あなたを思ってどうかしていたよ。どうにかしたいとも思っていたよ。

「別に、嬉しいだけよ」

ウエディングドレスを着たあなたはとても綺麗ね。
嬉しいのと言って私はあなたを抱きしめた。すぐにこのぬくもりは別の誰かのものになる。わかっている。伝えられなかった。好きとただひとこと、孤独で悲しいと、ぽつりとも言えなかった私が悪い。

ウエディングドレスに零れた涙ひとしずく、それだけ連れて、私の知らない誰かのところへ行けばいい。


孤独で悲しい女の結末。


小説リハビリ
(110203)