ホームの外でトウコを見た。
一目では正直自信がなかったが、隣の少年と話しているその声で本人だと確信した。
すぐに彼女だと気付けなかったのは、普段高く結い上げられている髪が下ろされ、動きやすいデニムパンツが女性らしい柔らかなシルエットのスカートになっていたからだ。
そのような可愛らしい恰好、見たことありませんよ、とか。
隣の少年は誰ですか、とか。
そういうものを果たして聞いてもいいのか、悩む。
年上で大人の恋人というポジションは、常に見栄との戦いだった。
「あれ?ノボリさん?」
長い間凝視してしまっていただろうか、トウコがこちらに気付きこてんと首を傾げた。
隣の少年は、ノボリとトウコを見比べて、彼女と二、三言小声で話すと、こちらに軽く会釈をし行ってしまう。
代わりに駆けてきたトウコがノボリの隣に並んだ。
「珍しいね、買い物ですか?」
「ええ、クダリのお菓子が切れてしまいましたので」
不意に自分が買い物帰りだったことを思い出し、紙袋をふたつ持ち直す。
片方は言葉通り、クダリのおやつだ。困ったことに彼は三時の軽食がないと駄々をこね働いてくれない。
「大変ですね、片方持ちますよ」
「そんな、女性に荷物を持たせるなんてできません」
「あら、わかりませんか?荷物持ちなんて、ノボリさんと一緒にギアステーションまで行く口実ですよ」
あっけらかんと言われ、そんなもの口実なんてなくたっていいのにと思うもののありがたくお菓子ばかりの方を持ってもらうことにした。
嬉しそうな彼女を見たら、荷物を持たせるくらいいいかと思えてしまうのだ。
「それでは、お願い致します」
「任せて下さい」
えっへん、と胸を張る彼女にわずかに笑うも、その彼女の仕種に合わせ揺れた髪の毛が目に入り一気に胸がざわめいた。
「ノボリさん?どうかした?」
一瞬息を飲んだノボリに気づいたトウコは、先ほどのようにきょとんとノボリを見つめる。
逡巡し、さりげない程度に彼女の今日の出で立ちに触れた。
「…本日は随分と可愛らしい恰好でいらっしゃいますね」
「え?ああ、これ?」
トウコがスカートの先を摘み軽く持ち上げる。
普段から見慣れているはずの太ももが覗き、咄嗟にはしたないですよとスカートを押さえた。
「知り合いのパーティーに出席してきたので」
「パーティー?」
「アララギ博士の誕生日だったの」
屈託なく笑うトウコを見れば自らの考えが邪推だったのは明白だったが、彼女の口から決定打が欲しく深追いした。
「ああ、では先ほどの少年は」
「幼なじみのチェレンって言います。そのうちバトルサブウェイにも来るんじゃないかな」
何の含みもない、ただの幼なじみの紹介。
ようやく強張っていた身体の力が抜け、晴れやかな気持ちになる。
「それはそれは、楽しみでございます」
「ねえ、やっぱりノボリさんくらいになったら見ただけで強さがわかるの?」
「と、言いますと?」
「だって、さっきチェレンのことすごい好戦的な目で見てたから」
負けないぞ、って感じ?とからりと笑うトウコにはわかるまい。
今、どれほどノボリがばつの悪さを感じているかなんて。
鉄火面が、クダリが見たら大爆笑するくらいわかりやすく崩れていることに、きっと彼女は気づかない。
「せっかくだしサブウェイ乗っていこうかなー」
「…やめて下さいまし。そのような短いスカートで動き回るのは」
ため息をついてトウコの頭を撫でて下を向かせたのは、ずるい大人の悪い知恵だった。
大人だから、show off
(赤くみっともない顔を見せない術なんて、大人ですからいくらでも知っているのです)
(110710)