クローゼットから二着洋服を取り出して、姿見の前でかざしてみる。
うーん、といまいちな反応をしてクローゼットに戻り、また違う服を手に再び姿見の元へ行き。
トウコの長いファッションショーを、ノボリはなんとも言えない気持ちで見ていた。

基本的にノボリに全休はない。
有休はあるものの、クダリひとりに任せることが不安で半休ずつしか取れないのが現状だ。
そんな状況で、都合よく飛び込んできたレールの定期点検―――毎朝ノボリが行うようなものではなく、専門業者が行う一日がかりの大規模なものだ―――に、バトルサブウェイは終日全面休止。
久方ぶりのノボリの休日に誰よりも喜んだのはトウコだった。

「せっかくノボリさんと遠出できるんですよ?ちゃんとした恰好したいもん」

随分長いおめかしに対する言葉がこれでは、ノボリも待たざるを得ない。
トウコはワンピースとミニスカートを手にうんうん唸っていて、どうやらその二着にまでは絞り込んだらしかった。
こっちの方が…いやでも…とたびたびひとりごとを言っていたが、確認というように顔を上げこちらを見る。

「ノボリさんは髪の毛下ろしてる方が好きですよね?」

唐突に言われた言葉に、咄嗟に反応できなかった。

「あれ、違いました?」
「…ああ、いえ。あまり意識したことがありませんでしたので…どうしてそのように思われたのですか?」

固まってしまったノボリを不思議がるトウコになんとか言葉を返す。
ノボリは女性の髪型に対して特にこだわりがあるわけではない。
あるのはトウコかトウコじゃないかの二択だけだ。
なので、なぜトウコが自分が髪を下ろしている方が好きだと思ったのかがわからなかった。

尋ねたら、彼女はわずかに頬を染める。

「だってノボリさん、いつも私の髪の毛ほどくんですよ…?」

いつ、なんて聞かなくてもわかった。
なんでもないときであれば、トウコが恥ずかしげに赤らむ必要などないのだ。
だからなおさらノボリは唖然とした。まったくそんなくせに気付いていなかったのである。

確かに、白いシーツに散らばるトウコの髪を見るのが好きだとは思っていたが。
まさか自分で解いていたなんて!

「…トウコ様、やはり髪は結い上げて頂けると嬉しいです」
「え?」

互いにたまらなくなって視線をそらしていたが、不意にノボリが口を開く。
下ろした方が好きだと思っていたけれど、実は結った方が好きなのか。
結局好みを把握できなかったなとトウコが髪留めをアクセサリーボックスから探していると、その髪を一房とってノボリが口づけた。

「そして、今夜また、ぜひほどかせて下さいまし」

言われた言葉を深読みして、トウコは首まで赤く染める。
小さく頷いて髪を揺らした。
そうして、今夜ほどかれるための黒いリボンを、きつく結びたいのか緩く結びたいのか、それすらもわからないまま髪に巻きつけた。


事前承諾。
(ほどいてもらいたいのか、そうじゃないのか)


シュリンプさまリクエスト「ノボ主♀」でした!
あだるてぃ(当社比)になりましたが大丈夫だったでしょうか…!
心撃ち抜かれたとのお言葉、すごく嬉しかったです^^

シュリンプさま、リクエストありがとうございました!
(111212)