仁王さんは意外と機械に疎い。
というのは日吉談で、一見強そうな素振りを見せるのにその実めっぽう弱いらしい。
いわく“機械は化かしがいがないのがつまらん”とのことであるが、恐らく理解する気がないのだろうと思う。仁王が興味のない分野に全く食指が動かないことを、日吉はこれまでの付き合いで知っていた。
基本的に仁王は面倒がりである。
下手をすれば食事すらわずらわしくなり抜いてしまうくらいに。
そのくせ一度凝り始めたものはとことん突き詰めねば気が済まないのだから、彼自身も面倒な性格と言えよう。

さて、そんな仁王から珍しいことにメールが来て、日吉は面食らいしばし携帯の画面を凝視した。
まず仁王が携帯を携帯していたことに驚いた。
確か以前、机の上で行方不明になったと言っていなかったか。捜索隊(仁王ひとりである)の懸命な作業にもかかわらず残念ながら発見することはできず、捜索打ち切りになったんじゃ、と全く残念そうでない様子で言われたのを思い出す。
どうやらあれから無事に見つけられたらしい。
見つかったことはよかったのだが、今度は仁王がメールを送ってきたことに日吉はびっくりしていた。

先述の通り、仁王は機械に弱く大変な面倒がりである。
用件といえばすぐに電話に手を伸ばす。しかし日吉があまり電話を得意としないこともあって、わざわざ連絡を取り合うことなどなかった。
なかったというのに、一体どうして。

しばらく呆けた後ハッとしてメールを開けば、それと同時に電話を着信した。パッと切り替わった画面に確認もせず反射的に受話器ボタンを押したらそのまま耳元に持っていく。

「はい」
『もしもし』

仁王さんだ!
メールが来たのもついさっきだというのに、まさか電話までかけてくるとは。
珍しいどころの話ではなく、いっそ日吉は怪談を聞いてるみたいな気分になってきた。

「一体どうしたんですか。…あ、メールはまだ見ていないんですが」
『んーん、よかよ。見る前に電話するつもりじゃったし』
「…?」

どういうことだろうと首を傾げるものの、含み笑いをする仁王は何か企んでいるようで話す気配がない。
まあいいかと日吉も思い直す。メールはもう着信したのだ。あとで見る時間などいくらでもある。

ところで、日吉はただいま帰宅途中であった。もう少し歩けば電波の入りにくい一帯に入るため日吉は足を止める。
何故か雨の日だけは電波が届くその付近は近所では有名で、軽く心霊スポットのような扱いを受けていた。もちろん日吉は率先してその道を通っていたのだが――それはそれはもうワクワクしながら!――今日ばかりは都合が悪い。

『のう日吉。俺んとこの部活、今日は自主トレだけになったんじゃ。』
「は、」
『やけんの、さっさと終わらせて、駅に走ったんじゃけど』

まさか。
来ると言うのか、東京に?
仁王の言わんとすることがわかり日吉はぎょっとした。明日も学校だというのに、放課後の今から?!

「仁王さんまさか来るんですか」
『んー?日吉は俺に会いとうない?』
「…そうは言ってないです」

問いに返された問いに訪問を確信し日吉はため息する。…ため息するが、嫌なわけでもなく。
むしろわざわざ来てくれるのはとても嬉しい。本来なら昨日贈りたかったプレゼントも、たった一日遅れで済みそうだ。
迎えに行きますから何時着予定ですか、と腕時計を確認しながら問えば仁王が笑う。

「ひよし」
「?!」

電話の向こうから聞こえた声と、不意に後ろから聞こえてきた声が重なり驚きに目を見開いた。
伸びてきた腕に捕まえられて緑のブレザーが目に入る。立海の制服、と思うより先に耳元に唇が寄せられた。

「会いに来たぜよ」

仁王と。
電話越しに聞こえた音と/背中側から聞こえた声/振り向く身体は、身動きもとれない


HAPPY BIRTHDAY 仁王!
(121205)