鞄の中にジャージがない。漁れど漁れどジャージは見つからず、まあここまでせずとも寮に忘れてきたことは一目瞭然で、笠井ははあとため息をついた。
机の上に置きっ放しだ。入れる直前に誠二に呼ばれ(大層急いた声で呼ぶから慌てて行けばしょうもない用だった)そのままだ。
誠二のせいだ、とうらめしく思うものの、当の本人はただいま隣で爆睡中。昼休み中に古典の課題を提出しなければと泣きついてきたのだが、力尽きて眠ってしまったようだ。
昼休みが終わるまであと二十分。起こす気はない。仕返しだ。

寮に取りに帰ろうかと思ったが二十分はいささか短い。それならば、先輩に借りた方が早そうだ。
先輩、と考えて一番に思いつくのはあの人。
誠二をそのままにして、そっと席を立った。



三年の教室とは居心地の悪いもので、きょろきょろと見知った姿を探す。
サッカー部は目立つ。時折自分を知っているのかひそひそと小声でなにかを囁き合うのが聞こえてばつが悪かった。
女の生徒(恐らく上級生だ)手を振られて、どうしたらいいかわからないでいたところ。

「おい、後輩にまでちょっかい出してんじゃねえよ」
「あ、三上邪魔しないでよ。笠井くん可愛いんだもん」

後ろから頭を捕まれて、振り向けば探していた先輩でホッとする。
不機嫌そうな顔でこいつ人見知りなんだよ、と自分を背に庇ってくれた。

「そこが可愛いのに…」
「ほら、あっちいったいった」

渋々といった様子で女子生徒が下がると、ようやく三上はこちらを向いた。

「で?どうしたんだ。珍しいな」
「あ、すみません、ジャージを持ってきてませんか?」
「ジャージ?」

三上はふむ、と思案顔になって、五限?と問うた。頷く。

「部室に置いてるわ。ほら、行くぞ」

先を歩きはじめた先輩を見て、助かったと安堵の息をついた。



のは、よかったのに。

「な、なんですかこれ…っ」

部室に入るや否や固いベンチに押し倒された。頭をゴツンと打つ。

「あ?なにって、ナニだろ」
「ジャージ貸してくれるんじゃなかったんですか…!」
「んなもん、忘れた時点でサボり決定だろ」

感謝しろよ、俺様も一緒にサボってやっから、と例の笑みを浮かべられ思わず息を飲む。
ああ誠二、起こさないなんて意地悪をしなければよかった。課題は手伝うから助けに来て。やっぱり来ないで。どちらの気持ちが本物だろう。


ジャージ忘れました
(なにもかも誠二のせいだ!)


title→joy
(101222)