祝日の遊園地というのは場所に限らずどこでも混む。
それならいっそいちばん混んでいるところに行ってみよう、と言い出したのは翼で、柾輝は、いいけどあんたキレるなよ、と釘を刺した。
人が集まると馬鹿な奴らも何人か紛れ込んでいるもので、翼はナンパまがいのことをされるたびに――これは翼が男であるからナンパにならないだけで、行為はナンパそのものである――男ですけど、とキレかけて、それでも引かぬものなら当たり前にキレる。スペインでは名の知れた選手であるから、時折観光のスペイン人からは興奮気味でハグや握手を求められ、それには笑顔で対応するのだけど、ナンパ男にかける情けなど翼は持ち合わせていないらしかった。
だから柾輝は、祝日にいちばん人気のある遊園地に行こうなんて大丈夫かよ、と思ったのだが、今日は虫よけがいるから大丈夫だろ、と楽しげに笑われると断るなんてできなくて。
いやまあ初めから柾輝には、翼の言葉に反論を示すことなどありやしないのだけど、それでも、翼が楽しそうだからいいか、と思ってしまうのだった。



室内アトラクションから出てくると辺りがすっかり暗くなっていて驚いた。並んでいたこともあり少々長いしすぎた感はしていたものの、こんなに日が暮れているとは。もう冬がそこまで近づいてきているのだとしみじみ思う。
せっかく来たのだから閉園間近の花火まで見て行こうかと翼が言ったので、柾輝もそれに頷いた。自分たちがこんなところへ来ることはなかなかないし、いい記念になるだろう。
花火までまだ時間があることを確認した翼が、他のアトラクションを目指して歩き出す。乗れるだけ乗らないとと言いながら本日絶叫系ばかりを巡っているのだが、どうやら次もそうらしい。
ほら柾輝早く行くよと引っ張りながら、翼がごく自然に腕をさすったのを柾輝は見逃さなかった。

「翼」

呼び止められて足を止めた翼にジャケットを脱いで肩にかける。それから手を取り自身のそれで包み込んだ。冷えている。自分に比べて薄着だった翼は夜まで残ることを考慮していなかったようで、冷え込み出した今の季節にはいささか辛かろうと思った。

「先にショップに寄っていいか。確かブランケットがあっただろ」

マントのように着られるブランケットはそこらじゅうで女の子が着ていてすでに把握済みである。
ぽかんと呆けて柾輝を見ていた翼がハッと我に返り、そうしてじわじわと頬を染めた。
確かに肌寒いとは思っていたけど、そんなこと言わなかったのに。当たり前のように気付いてくれて、当然のように上着を差し出して。柾輝のくせにかっこよすぎ、と心の中で悪態をついて、未だ暖かな手にもう一度意識が引き戻される。

「ちょ、柾輝ここ外…!」
「…それ、今さら言うか?」

ジェラートも食ったし、そもそもこんなとこに来ておいて?
呆れというよりは先ほどの仕返しのような言い方に、根に持ってたのかと今さらながらに気付いた。だけど、自分がする分にはいいけど相手にされるのは恥ずかしい。

「手、あったかいだろ」
「…あったかいけど」

いっそ悔しいくらいに心地いい温度に、翼はその手を離せない。
ああもう知らないと開き直り、繋がった手を引き柾輝を促す。

「…ほら、ショップ行くんだろ!言っとくけどブランケットはお前が買えよ、俺が欲しくて買うんじゃないんだから。ミニーしかなかったら違う店まで買いに行くからな。女物は絶対着ないし。あとついでにもうお土産も買うから!ちゃんと持てよ。ちょっと聞いてる?ちょっと何笑ってんのさ、一人で笑うとかまじ不審者なんだけど」

まくし立てるように言葉を連ねる翼に柾輝は笑いが噛み殺せなかった。ただ最後のものには物申したくて、ひでえ、と声を震わせ文句を言う。
翼のマシンガントークを久々に聞いた。そんなに動揺したなんて。
見た目も大人びたし、言動だってもう昔ほど無茶を言うこともなく落ち着いたけど、やはり翼は翼のままだ。

ふくれっ面の翼は、ばつの悪そうな顔をしてそっぽを向いた。
ああなだめるのが大変だと思いながら、なだめる程機嫌を損ねるのすら久しぶりで柾輝はまたおかしくなって笑った。

19:01
(ときどき現れる/出会った頃のおまえのかけら/拾い集めては、撫でさすり)

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