祝日はただでさえどこも混む。
そのためこの日は室内で過ごすことが多いのだが、たまには外に行こうよという翼に引っ張られて、遊園地にやってきた。スペインでは顔の知られてる翼も、国内ではあまり騒がれることもない。いや、あるにはあるのだが――君可愛いね、ひとり?などと声をかけてくるのは総じて日本人ばかりである。スペインでなら真っ先に握手とサインを頼まれるというのに!――無視を決め込んでいいものばかりなので翼はあまり気にしていなかった。

「…遅い!」
「悪い、混んでた」

で、大丈夫だったか?と翼を見た柾輝は、まあ聞くまでもないなと失笑した。
野外でのワゴン売りのジェラートをねだられて、ちょっと待ってろと買いに行ったのが少し前。無事お使いを果たし帰ってきてみれば、何やら翼が絡まれていた。遊園地に一人でいる客など早々いるわけないというのに――それもこんな上玉が!――よければ一緒に回らない?という具合の声が聞こえてきて、慌てて追い払いに駆けたのだった。
翼のピキピキと青筋を立てる様を見て、間に合ってよかったと息をつく。
翼はナンパされることを“あまり”気にしてないと言うけれど、柾輝が見ている限り十分気にしていると思う。
翼は頭はよいし、自分の見た目も、初対面の相手の目に自身がどう映るのかもよく知っている。だから柾輝も翼の心配はしていないのだけど、ナンパ相手には同情することがたびたびあった。
見た目につられ男だと見抜けなかった者が逆上したり、また男だと信じず無理強いをしようとしたら、翼はそれはそれはもうひどい罵声と共に実力行使に出て、警備員が来る前にトンズラする。普段あれだけ周りにどう見られているかを意識できるというのに――有名人が騒ぎを起こしちゃいけないということも翼はごく自然に理解している――大人の対応ができないのだから、やっぱり気にしてんじゃねえか、と柾輝は思っていた。
が、それを言うには柾輝も自分の身が可愛いので閉口するのだけど。

差し出されたジェラートをさんきゅ、と嬉しそうに受け取った翼が、お前の分は買ってこなかったのかよと首を傾げる。
昔はよく翼や仲間たちと食べていたけど、元より甘いものをそんなに好んでいたわけでもない。ただでさえこういうところの食べ物は高いのだから自分の分は必要ないと考えたのだが、翼は不服そうに唇を尖らせた。かと思えばすぐに再び笑みを浮かべる――が、この笑い方は。

「じゃあ俺の少しやるよ。ほら、あーん」
「……翼」
「なに?」

いたずらを思いついた少年のような表情でスプーンをこちらに向ける翼に、引きつった顔で名前を呼ぶ。
先程の笑顔は柾輝の思った通りやはりいいものではなかった。翼はすっかりからかいにかかっている。
自宅ならばともかく、人通りも多い場所でそれはばつが悪すぎるし、男が男にすることではない。
なだめようとするものの、外ですることじゃないとさとせば外だからいいんだろと楽しげに笑われるし、男が二人ですることじゃないと思うものの男同士に見えないだろと先手を打たれてしまえばそれまであった。だって、本当にまったく見えないのだから!

「いいから早く。俺の“あーん”が食べられないわけないよね?」
「…頂きます」

観念して翼の手からジェラートを一口食べる。久々に食べるとおいしい。翼も満足げに頷いていた。そうしてパクリと自分の分をスプーンで口に運ぶ。

「翼、間接キス」
「ぶっ…!」

思い切りむせた翼に、仕返しだとばかりに舌を出して笑った。

13:26
(デートをしよう、いつぶりに/初な少年に時間を戻す/初々しさを身にまとって)

(121123)