キスして、と可愛らしく唇を突き出されて断れる男がはたしているだろうか。
この男は自らの容姿の可愛さを自覚してるのではないかと思わず勘ぐった。
可愛いと言われて怒るくせに、こういうときだけフル活用して、まったくずるい奴だと思う。
「…翼、ここ学校」
「昼休みにこんなとこ誰も来ないよ」
こんなとこ、とは運動部の部活棟のことで、確かに文化部ならまだしも運動部が昼休みに部室には来ないだろうなと考える。
どうせ翼に口では勝てないのだ。はいはい、と額に唇を押し付けると翼が不満げな表情をした。
「そこじゃない」
「あんまりすると俺の抑えが利かなくなるだろ」
「別にいいだろ、そんなの」
こんなところで手を出して人に見つかればそれなりにやばいと思うし、下手すれば停学や退学にだってなりかねない。
自分はともかく翼までそんな目に合わせるわけにはいかないと思っているのに、困ったお姫様は自分を煽るようなことばかりしてくれる。
「柾輝は気にしすぎだよ」
「んなことねえよ」
「あるね。もっとやりたいようにすればいい」
やりたいように、ねえ、と曖昧に笑った。こんなところで、翼に、やりたいように?
「……ムリ」
「ああもう!なんでそんなに頑ななんだよ!」
「別に無理して盛らなくてもいいだろ」
なんでそんなに手を出されたいのか。
四六時中求めてほしいなんて乙女な考えでもあるのか。
「ほら、もう昼休み終わる―――」
そう言いながら腰を浮かせるところだった。
がっちりと首に腕を絡められ、目を見開いてる間に仕掛けられる。
ゆっくりと離れていく顔。その表情は色気に満ちていて。
「…教室、帰るんだ?」
「……もう帰れるわけないだろ」
翼のためだとか、自分のためだとか。
そんなに風に重ねた言い訳をすべてかなぐり捨てて、彼の唇に噛み付いた。
遅刻決定2分前
(知らねえからな)
まーつばが一番好きです
title→
joy
(101218)