コシマエコシマエと雛鳥のように付きまとう遠山にとって、さしずめ自分は親鳥といったところだろうかと小さく自嘲した。
彼の言葉はストレートで、例えば目の前にプリンがあれば甘いうまいと言うし、反対に彼の嫌いなしいたけがあれば、それがしいたけ好きの人の前だろうと嫌いまずいと言う。つまりは、気を利かすことができない。いや、気が利かないのは自分もなので、裏表がないと言ったらいい意味にとって貰えるだろうか。けなしたいわけではなく、彼は脳と口が直結している“馬鹿”だった。
その“馬鹿”が、自分に好きだ好きだとうるさいから悩んでいる。

遠山にとってテニスというのは呼吸と同じくらい大切なものだ(その点に関しては自分も同じだが、まあそれは置いておいて)
強者を好くのは、高みを追い求める者として当たり前のことだ。自分だって、手塚部長や氷帝の跡部に好意を抱いている。
ただ問題は、自分が手塚部長や跡部に向ける好意とは違うものを遠山に寄せていることだ。

先述の通り、遠山は自分に好きだ好きだとまとわりついてくる。
それを嬉しく思う半面、申し訳ないような、後ろめたいような気持ちになるのも事実だ。
遠山の“好き”と自分の“好き”は違うものだから。
彼の寄せる親愛に、自分の寄せる恋愛がつらいと悲鳴を上げていた。



「コシマエー!」

遠くから自分を見つけ駆けてきた遠山に、気づかれないようため息をつく。
実際は遠山なのであからさまについてもきっと気づかないだろうが、恋慕している相手の前でそこまではできない。
今日も今日とて好きだ好きだと喚いたので、今日こそ諭してやろうと密かに勇んだ。

「あのね遠山」
「なんや?」
「そんな簡単に男に好きなんて言わない方がいいよ」
「えー?なんでなん?」
「なんでって、勘違いされるだろ」

勘違いするだろ、ではなくて、勘違いされるだろ、と言う辺りに自分の意気地のなさが窺える。
男に言わない方がいいと言ったが、実を言えば女には尚更言ってほしくなかった。

「勘違いってなんなん?」
「だから、お前が俺を好きだって」
「好きやもん。ええやん、勘違いやないで!」

ああ、自信満々に胸を張るな馬鹿!
考えあぐね、結局いちばん避けたかった言葉で説得した。

「俺が、勘違いするだろ」
「コシマエ?」
「だから、お前が俺に好きだ好きだ言いまくってたら、俺が、そんな意味で好かれてるのかって期待するだろ!」

まくし立てて気づく。期待ってなんだ。それではまるで、遠山に好きだと言われ喜んでいるみたいではないか。いや、喜んでいるのだが。そうじゃなくて。今はそうじゃなくて。
案の定きょとんとした表情でこちらを見つめる遠山に弁明しようとしたら、それより先に彼が口を開いた。

「そんな意味って?」
「それは、だから、ああもうわかれよ」
「わからんもん。ワイ、ずっとコシマエのこと、たぶんコシマエの言う"そんな意味"で好いとったで」

“そんな意味”が何なのか、本気でわかっているのかこいつは。
本当に、自分と同じ気持ちだとでも。

「好きって言うから、ややこしいんやろか」
「遠山?」
「コシマエ、ワイと付きおうて」

にっこりと笑う遠山をあんぐりと見つめ返していたら、意外とコシマエって鈍いんやなあ、なんて言うものだから。
本当に同じ気持ちだったことにようやっと気づいて、今更ながらに顔を赤らめた。


同じ気持ち
(コシマエ、顔真っ赤。可愛いから見せてや)
(うっさい、見んな!)


企画「オトメン」様に提出
可愛いるきずが大好きです
素敵企画を主催して下さった曖晴日さま、ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました!
(110711)