部活帰りに慈郎と帰宅すると、必ずと言っていい程寄り道するはめになることを日吉は知っていた。
土曜の午前練習が普段より少し伸びたせいで帰宅時刻が一番日の高い時間になってしまい、慈郎は暑いCーと帰路でうなだれる。梅雨入り宣言を受けた東京の空はここ数日くすぶっていたのが嘘みたいな快晴である。用心して持ってきた折り畳み傘が日吉の鞄の中でふて腐れていた。

コンビニに寄ろうと今日も今日とて日吉の手を引いた慈郎は――その手がいつもより早く離れたことを日吉は知っている――扉が開くなり涼しさに目を細める。コンビニの効きすぎた冷房に6月だということを忘れそうだった。
いつもはブラブラと店内を物色する慈郎が今日はまっすぐと歩を進めたので、日吉は首を傾げて問いかける。

「何か買いに来たんですか?」

慈郎は肩越しに振り返って笑った。

「日吉、アイス食べよ!今年初アイス!」



ソーダのアイスバーが食べたかったのだと慈郎が公園のベンチに腰かけて言った。
日吉の手にも同じものが握られており、これは慈郎が「夏って言ったらやっぱりこれだC〜!」と勝手に買ったものだった。

空を眺める慈郎の横に座る日吉は、いつもより広いその間隔に気付いている。

じめじめとした蒸し暑さがそうさせたのか、慈郎は日吉に触れることを極力避けている。
気付いていないとでも思っているのか。
普段あんなにベタベタとくっついてくるのだから、控えられたらすぐにわかるに決まっているのに。

暑さが慈郎のスキンシップを控えさせたのなら、日吉が行動を起こす気になったのもまた暑さのせいだった。
人ひとり分のスペースに放り出されている慈郎の手は随分無防備だ。投げられたそれに自らの手を重ねようとして――触れる前に慈郎が口を開いた。

「夏ってさ、暑いじゃん?」

一体何を言い出したのかと日吉の動きが止まる。中途半端な位置で停止した日吉の手を慈郎の手が握った。

「俺体温高いし、日吉は低いし。嫌かなあって思ってたんだけど」

俺バカだから、いらない遠慮しちゃってたみたいだCー。
ようやくこちらを向いた慈郎が握った手を持ち上げて笑うものだから、日吉もつい口から本音が零れ落ちる。

「…本当、余計な気づかいですよ」

季節なんかに触れ合う機会を邪魔されてはたまらない、とはさすがに言わなかったけれど。
ぱちぱちと目を瞬かせた慈郎は、えへへ、とはにかんで日吉の唇に自分の唇を合わせる。

ソーダアイスで冷えた口内に、同じく冷やされたはずの慈郎の舌が割り入った。
熱い、のに冷たくて。
冷たい、を感じて、また熱くなる。

一度離れた慈郎の口から、冷たい、と熱い、それから気持ちいいという言葉が零れて、もう一度ゆるやかにキスをされる。
口の中に残るソーダアイスの名残りと流れ入った汗の味に夏を感じた。

夏の足音。
(今から駆け出すよ)


ツイッターの診断メーカーより『ジロ日はどこかではにかみながら、唇にゆるやかなつめたいキスをするでしょう。』でした
久々すぎて難産もいいところ
(120620)