放課後の学校は何かと騒がしい。グラウンドでは野球部が掛け声を上げながら走っているし、廊下では女子がおしゃべりに花を咲かせている。こんなに寒いのによくやるわ、とリーフは自分の腕を抱き寄せて震えるふりをした。

「ねえ野球部うるさい。部費減らしてやろうか」
「お前にそんな権限ねえよ」

だいたいうるさいってなんだうるさいって。青春してんだろ。
グリーンがプリントから少しも顔を上げずに言った。

放課後の生徒会室は、リーフにとって何かと居心地のいいところだ。
まず暖房が入っている。特別寒がりというわけではないが、真冬のこの時期にはやはりありがたい。
次点で、大概ここにはグリーンがいた。彼は副生徒会長をしているので、当たり前といったらそうかも知れない。
暖房が効いてて話相手にも事欠かない。リーフがここに溜まるには充分な条件だった。

「やーだー、暇」
「知らねえ」

といってもあくまでグリーンは仕事でここにいるわけで、リーフと遊んでくれるわけではない。
合槌人形、とぼそりと呟けばこめかみに青筋を立てながら「追い出されてえのか」とすごまれた。冗談の通じない男である。

「それ何の書類?」

しばらくうつ伏せてふて腐れていたかと思ったリーフがすぐに立ち上がりグリーンの後ろに回った。手元からプリントを奪う。

「あ、てめ!」
「ふうん、“卒業式について”ねえ」

同窓会の会費集めやら会場設営の人手の振り分けやら、何やら面倒そうだ。
リーフだったら放り投げてしまいそうな案件だが、彼は律義に頭を悩ませているらしい。

「まったく、こういうの会長にさせろよな」

文句を言うグリーンの言葉はもっともだ。こういうものは本来副会長よりも会長がすべきものだろう。
しかし、そもそもリーフにはグリーンが副生徒会長へ立候補した理由が理解できなかった。

今年の生徒会長は椅子に座っているのが仕事みたいなやつだと、リーフは知らなかった。知らなかったからこそ、リーフは学校推薦でももらえるかなと軽い気持ちで生徒会に立候補した。
結果は落選してしまったのだが、グリーンの仕事の多さを見ると落ちてよかったとすら思う。
だが、グリーンは知っていたのだ。会長になる男がああいうやつだと。昔馴染みだと言っていたのだから。

「グリーンさ、わざわざ副会長なんてよくやろうと思ったね」

私なら無理だわー、と軽口のつもりだった。
意外と真面目な性格を褒めてもいいとも思っていた。

「…お前が、生徒会やってるやつかっこいいって言ったんじゃねえか」

だから、言われた言葉がよくわからなかった。
え、と目を白黒させてグリーンを見る。ちらりと顔を上げて、すぐにそらされた。

「お前だけ落ちやがって」

それって。それって。それって。

帰るぞ、とグリーンがプリントを揃えながらリーフに声をかける。
いつの間にか書類は終わったようだ。

いつ?
いつ、終わったのだろう?

「…なんかないと、生徒会室も開けらんねえんだよ」

グリーンが、とっくに終わっていたであろう書類に今日の日付を記入した。


それって!それって!それって!
(ねえ、遠回しすぎるのよ!)


(120111)