眠れない。時計の秒針音だけが響く寝室でブルーはゆっくりと目を開いた。当たり前だ。あんなにコーヒーをがぶ飲みしたのだから。寝返りを打って隣で眠るグリーンの顔を覗き込むと、カーテンの隙間から差す月光を浴びてなんだかとても綺麗だった。絵になる、というか。それにしても、昼間同じだけコーヒーを煽ったにも関わらずよく寝ている。日頃からカフェインを摂取しすぎて効かない身体にでもなっているのだろうか。それはそれでどうなのだろう、と思うが彼にはたいした問題ではないに違いない。そういう人だ。
上体を起こしてまじまじとグリーンの顔を見つめた。コーヒーを浴びるほど飲んだのはこうして彼の寝顔を見たかったからで、決して考えなしだったわけではない。そういえば昔はこうして起きているのが嫌いだったな、と思い出す。気を休めることができずに、心細さだけを胸にこの夜が一生明けないのではないかと震えていた。夜に起きていることは怖かった。不幸のどん底に突き落とされた気分だった。
夜はいつだって不幸な気持ちだった。幸福に感じるようになったのは、隣にこの人が眠るようになってからだ。
抱きしめられて眠るうちに震える身体は安心に溶けていった。こうして起きている夜に幸せを感じることができるようになった。それは、彼のぬくもりだったり、気配だったり、静かな寝息だったり。それらを感じられる夜を、いつの間にか好きだとすら思っていた。

「…ブルー?」
「やだ、起こした?ごめんね」

薄く目を開きぼんやりとこちらを見るグリーンに謝るも、彼は気にした様子もなく眠れないのかと問うてきた。確かに眠れない。しかし意図的に作ったこの状況で眠れないとはいかがなものか。せめて「眠らない」ではないだろうかと思っていると、グリーンは上体を起こしているブルーの頭の後ろに手を置きそのまま自分の方へ引き寄せた。唇がブルーのそれに押し付けられる。

「ぐ、グリーン?」
「夜は寝るものだ」

だから、なにも考えずに寝ろ。
そう言って抱き寄せるとブルーの髪に口元を埋め再び目を閉じてしまった。
グリーンは、ブルーがなにか考え事をして眠れなくなったと思ったらしい。ブルーは思わず音を立てずに笑った。半分正解で、半分は外れだ。グリーンが心配してくれたような悲観的な思いで眠れなかったわけではない。ただ、彼にはブルーがなにを考えて眠れなかったかなんて夢にも思いつかないだろう。

あなたのことを考えてたのよ。教えることもせず、グリーンの腕の中でブルーも目を閉じる。まだコーヒーの魔力は残っているけれど、彼の胸でなら、眠れぬ夜を過ごすのも悪くない。


眠れぬ美女に口づけを
(姫に王子を、ヒロインにヒーローを、あたしにあなたを)


企画「声がききたい、」に提出
(110130)