シロガネ山から下りてきて数日。ゴールドとふもとで別れる際、これ、俺の電話番号ッス、と数字の並んだメモを渡された。
持っているのはエリカのポケギアで登録することはできないのだと告げたら、いつか買ったら連絡を入れてくれと言われ素直にメモを受け取る。
エリカの元へ赴きポケギアを返すと、せっかくだからあなたもポケギアを持ったらどうですかと言われて、割と新し物好きなレッドはじゃあさっそくとエリカと共に買いに出かけた。どれがいいかこれがいいかとわいわい言いながらようやくひとつのポケギアを買って、エリカに彼女とタケシと、それからカスミの番号を教えてもらい登録して別れた。
さっそくゴールドに電話をすると、彼はあれからライバルの元へ再戦しに行ったのだという。しかし連絡がつかずにとりあえずクリスへとかけてみると、今まで連絡を寄越さず何していたのかとこってりしぼられたそうだ。
何って、修行に決まってるじゃないすかねえ?とレッドに同意を求めてきたが、心配かけていた自覚はあったのだろう。少々照れくさそうだった。
実家に帰り母にひとしきり見せびらかしたら、母がグリーンくんとブルーちゃんの電話番号は教えてもらったの?と問うた。
そういえば二人とも持っていたな、と彼らの家を訪ねると、二人とも留守だった。ちょっとやさぐれた気持ちになったが、ナナミがグリーンはジムじゃないかしら、と言ったので、ジムに足を運んでみた。
明かりはついている。ちょっと脅かしてやろう、と裏口からジムリーダーの待機する部屋までこっそり向かい、そうっと扉を開けると。
(…え)
ブルーがいた。もちろんグリーンもいる。机に向かって事務仕事をするグリーンに、ブルーが仮眠用のソファに寝転がって声をかけた。
「ね、こっちとこっち、どっちが可愛いと思う?」
雑誌のようなものをグリーンに向けブルーが問う。
グリーンはちらりと顔を上げてすぐに視線を落とした。
「どっちでもいい」
「もう!ちゃんと選んでよ!グリーンの意見が聞きたいのー!」
じたばたとブルーがベッドの上で暴れて、ミニスカートが際どいところまでめくりあがってきた。
思わずレッドは目をそらす。
「おい、スカート」
「平気よ。グリーンしかいないもの」
(平気なのか?!グリーンしかいないと平気なのか?!)
レッドは思わず心内で突っ込むと、すっかり入るタイミングを失ってしまい途方に暮れた。
どうしよう、これは番号を教えてくれと入りにくい。
仕事がひと段落したのか、グリーンが寝そべっているブルーの隣に腰掛けた。
ベッドに男女が座るってどうなんだ、と思っているレッドを尻目に、ブルーは平然としている。
「ねえ、グリーン〜」
どっちがいいの?とブルーが再び問えば、グリーンがため息をつく。
「別に、どっちも一緒だろう」
「そんなの、全然ちが…」
「着るのがお前なら、俺はどっちでもいい」
(ええー!グリーンそれは冷たすぎるだろ!)
ハラハラとブルーの顔色を窺えば、真っ青になったレッドと対照的に、顔を赤く染めていた。
「…そういう時は、ブルーちゃんは何着ても可愛いよ、とか言いなさいよ」
「“ブルーちゃんは何着ても可愛いよ”」
「もう、馬鹿!」
(…あー、そういう意味か)
お前が着るのなら興味がない、という意味ではなく、中身がお前なら、外見なんて気にしないと、そういう意味だったらしい。
受け取り方がこうも違ってしまったのは、自分とブルーだからであろうか?
ブルーがもぞもぞと動いて、グリーンの腰にぎゅうと抱きついた。
口元がわずかに動き何か呟いたが、ここまでは聞こえない。
それでも、グリーンの緩んだ顔を見れば、何を言われたのかなんて一目瞭然で。
(あーあーあー、お熱いことで)
レッドはそっと忍び足で回れ右してジムの出口へ戻っていく。
こんな雰囲気の中、番号なんて聞けるわけがない。
明日、きちんと事前にアポを取って直接会いにこよう。
そのとき、ふたりについて一通り茶化して。
グリーンなんかは黙秘したがるだろうけど、このレッド様に内緒でくっつこうなんて10年早い。
青春するとか、羨ましすぎるんだよ!とか、いっぱい文句を言った後に。
おめでとうと、伝えよう。
見えない丸で囲まれて。
(それにしても、俺だけのけ者かよ…ちぇっ!)
捧げ物/抹茶さまへ
(110309)