「プリクラ撮りましょう!」

ああ、そんな予感はなんとなくしていたのだ。
普段二人で出掛ける時には通らない通り。迷いなく進むその足は、何か目的地があるに違いないとは思っていた。
辿り着いた場所がゲームセンターだった時点で、クレーンゲームで何か取れなかった景品を代わりに取ってと言われるか、いかにも女子が好きそうなプリクラを撮ってと言われるか、目的はそのどちらかだということも、なんとなく予想がついていたのだ。

「…拒否権は」
「あると思う?」

ないと思う。言葉にせずにため息で答えた。伝わったようで、よろしい、と満面の笑みを返される。

「プリクラなんて撮ったことないぞ」
「そりゃグリーンはピンプリなんて撮らないだろうし、ないでしょうね」

知らない単語に首を傾げると、一人で撮るプリクラのことよ、とブルーが解説した。

「女の子は短縮言葉も造語も好きだから。あんたには聞き覚えがまったくないだろうけど」
「ああ、ない」
「カレプリとかチュープリとかまでならわかるけど、あたしもあんまり詳しくないわ」

そう言ってカレプリとチュープリの説明を付け加えるブルー。
正直グリーンにはその言葉の存在意味すらわからないのだが、女子には必要な言葉なのだろうか。



ゲームセンターの中にはたくさんのプリクラ機が設置されており、グリーンはカーテンの煌びやかさに目眩を起こす。
なんだってこんなにピンクとゴールドを多用したデザインなのか。
尻込みしていると、ブルーがその中の一つにグリーンを引っ張っていった。これにしましょ。

「んー…美白設定にしたいけど、グリーンの方が白かったら立ち直れなさそうだし…」

ブルーがあれこれ悩みながらパネルをタッチする。美白設定なんてあるのか、とグリーンはぼんやりと思った。俺の方が白いわけないだろう、とも。
とは言っても、もしかしたらプリクラ機によっては男の方が白く映る場合もあるのかもしれない。自分のあまり知らない分野の話題なので、その辺りはなんとも言えず口は挟まなかった。

「うん、こんなものでしょう!あ、あっちのカメラを見るの。画面を見てたら視線がおかしくなるからね」

彼女の指示通りにレンズを見つめる。陽気な声がプリクラ機内に響いた。“それじゃあ、撮るよー!3、2、1…―――”
ブルーはくるくるとポーズや表情を変えるが、グリーンがその動きについていけるわけもない。
せめてポーズくらい変えてよ、と頬を膨らませる彼女に、どうしたものかと思った時、先程の言葉を思い出した。

「ブルー」
「ん、何、」

頭を引き寄せて、自分の唇を彼女の唇に重ねる。
驚いて目を見開くブルーに、涼しい顔で瞼を閉じるグリーン、そして、カシャリとなるシャッター音。

しゅーりょー!と機械が終わりの合図をしたので顔を離す。落書きコーナーに移動してね!との案内に従おうとし、未だブルーが固まったままなことに気付いた。

「おい、ブルー。移動だそうだぞ」
「……」
「ブルー?」
「…今、ここから出れない」

こんな顔じゃ出れない、と真っ赤な頬を抑えてうずくまる彼女。
先に落書きコーナーに行ってて!と撮影所から追い出されてしまう。

「お、おい…」
「あたしもすぐ行くから!」

そう言われても、落書きしろって、一体なんて。
カーテンを見本にしようかと思ったが、見るのも恥ずかしいような言葉ばかりで諦める。

逡巡して、最初から落書き画面に選択されていたプリクラに本日の日付―――9月2日と記入した。
後は、すぐに来るからと言った彼女の言葉を信じて任せることにしよう。


(そりゃいつかはしようと思ってたけど、まさかグリーンからしてくれるとは思わないじゃない…)
(おいブルーまだか?時間制限があるようだが大丈夫なのかこれ)
(だいたい、プリクラも渋ってた奴がいきなりチュープリってどうなのよ!)
(おい、ブルー?)


グリブルの日祝い!!
(110902)