静かな部屋に一人分のシャーペンの音がカリカリと。その横で文庫本を読みながら時折部屋の主の様子を見る少女が一人。週末の課題を日曜に終わらせようというその神経がわからない、と読書をする少女ことクリスはペンを走らせるゴールドに対して思ったが、ゴールドいわく週末の課題を金曜に終わらせてしまうほうがよっぽど理解不能らしい。時計はすでに7時を指していて、まだゴールドの課題は終わらないのかしら、とノートを覗き込んだ。彼が珍しく真面目に課題に取り組んでいるのはこれが単位に関係する課題だからで、今日の5時頃に思い出したのだろうか、ひどく慌てた様子で電話をかけてきた。それからゴールドの家へ赴いてこうして彼を監視しているのだ。わからないところは解き方やその道筋を教えるが、自力で解けるところは自身ですべきである。答えを教えるのは簡単だし、クリス自身もその方がずっと楽なのだが、それでは彼のためにはならない。
終わるまで帰んなよ、と言われた。暗くなっちゃうじゃないと文句を言ったら、そんなもん送るに決まってるだろ、と逆に怒られた。夕食は課題が終わり次第うちで食べていけばいいと言われ、素直に甘えることにした。どんな形であれ彼氏と長くいられることは嬉しい。時計のカチコチという秒針音とシャーペンの音がひどく心地よかった。
「クリス、ここわかんねえ」
「どこ?」
机の上には教科書とノート、それにクリスがわかりやすく教えるためにと家から持参した参考書がある。来たばかりのときに出されたお茶請けとジュースは彼ばかりが食べたのでクリスのカップだけが底が見えていない状態で置かれていた。
「そこはね、」
床についていた手を上げノートに指先を向けようとして、腕がカップに触れた。ぐらりと揺れたカップはゴールドの方へ傾き中の液体を彼へとぶちまける。
「うわっ、つめて!」
「ご、ごめんなさい!」
慌ててカップを立て直すも時すでに遅し。半分以上は零れてしまっていて、クリスはハンカチを彼へ伸ばす。
「いいっていいって、ハンカチ汚すなよ」
「でも……」
「洗濯すりゃ落ちるだろ。……はくしゅん!」
「このままじゃ風邪引いちゃうわ。早く着替えないと」
ゴールドは気持ちが悪かったのかすぐさま洋服を脱ぎ捨てた。上半身が露わになって、思わず目をそらす。そのままタンスを開けなんかあったかなーとのんきな声をあげながら新しい洋服を探す彼の背中が視界に入り、頬がほんのりと赤くなった。
「なークリス、それ洗濯かごに入れといて」
くるり、と振り向いたゴールドと目が合ってしまい動揺した。
「せ、洗濯かごね。わかったわ」
「……」
「な、なに?」
じっと見つめてくるゴールドにドギマギしながら問いかけると、彼が意地悪くにやりと笑った。
「今、意識してるだろ」
「し、してない!」
「なに、俺の裸そんなにかっこいい?」
「ばか言わないでよ!」
どんなに否定しても説得力がないことなんて、クリスが一番わかっていた。
今、意識してるだろ
(不意打ちなんて反則よ)
企画「金色の瞳に恋をした」様に提出
(110129)