「織姫と彦星ってずりいよなあ。世の中恋人に会えないやつなんて五万といるのに、あいつらだけもてはやされてさあ」
「つまり?」
「俺ももてはやされてえー!」
ジタバタとソファの上でクッションに八つ当たりをするゴールド。そんな後輩を苦笑いで見つめるレッドの手には、一枚の書類が収まっている。
オーキド博士が学会でまた何かを発表するらしい。
その助手としてクリスとグリーンが借り出されていた。
「久々に、会う約束してたんすよ」
「うん」
「俺、どっちかっつうとフラフラする方だから、いつもクリスに待たせてばっかで」
「うん」
「……待つって、しんどいんすね」
たかだか数日、他地方へ出張に行っただけだ。
ゴールドのように、どこに誰と行き、いつ帰るかもわからないような状態ではない。
おまけに、トキワの最強ジムリーダー様も一緒なら、何の心配もないはずなのだ。
そう、わかっているのに。
「織姫と彦星はずりいなあ、どうせ今頃会っていちゃいちゃしてんだろ」
「そうだなあ」
俺もできるなら、こんなところで後輩の愚痴など聞かずに恋人の元へ帰りたい、とレッドが密かに思った。
それができないのは、この書類のせいである。
だいたい、素直じゃないこの後輩は肝心なところをいつも言えず仕舞いなのだ。
「ゴールド」
「なんすかー」
「もてはやされたいんじゃなくて、クリスに会いたいんだろ?」
「はっ?」
一気に顔色を真っ赤に変えたゴールドが否定の言葉を紡ごうとしたので、矢継ぎ早に教えてやる。
「これ、博士の忘れ物」
「!」
「届けるようグリーンから連絡があったけど、返事次第ではお前に代わってやってもいいよ」
にっこりと笑えば、先輩、意地が悪いっす、と恨み言が呟かれた。
聞きたいものはそれではない。
ぽつりとひとこと、俯きながら聞こえた素直じゃない後輩の素直な気持ちに満足して、ただの紙切れ一枚、それでも彼に取っては天の川を架けるカササギのようなそれを手渡した。
星合よりも会いたがり
(年に一度じゃなくても、今会いたいだけで)
七夕ですね
(110707)