朝、だと思う。窓の外が明るいから。窓と言っても壁は全部ガラス張りで、どこからが窓だかわからない。
昨日は灯台で眠ってしまったらしい。隣でアカリちゃんが寝息をたてていた。
お風呂に入ってない。灯台の階段を下る。
トレーナーは誰もいない。よかった。寝起きの姿なんて見られたくない。早足でジムへ帰り鍵を開ける。そのままお風呂へ直行。
シャワーノズルを捻れば冷水がザアザアと飛び出して私の身体を濡らした。
冷たい。でも、冷たいほうが好きなの。前は嫌いだったんだけどな。誰のせいかしら。思わず思い出し笑い。
私しかいないバスルームに、ザアザアと水の音と私のくすくすという笑い声が響く。
お風呂上り。長い髪の毛は乾かすのに苦労する。
それでも、切る予定はない。あの人が、お前の長い髪は好きだと言ったから。
また会ったときに短くなっていたら、彼はきっとため息をつく。
裸のままドレッサーの前に立ったら、髪ゴムで前髪を結い上げた。
鏡の前にいるのは、いつもの私。あの日、彼と別れたままの、曖昧な笑みを浮かべた自分。
ここよりずっと寒い地方だったから、寒いのが好きになった。あの人が、寒いだろと言って抱き寄せて眠るから、私はノースリーブを脱ぐことができなかった。
彼の厚い上着を肩にかけ、求められるままに抱きしめ返した。
私は、ノースリーブを脱ぐ。ここには彼はいないから。寒いときは、自分で防寒しないと。
本当は、このくらいの寒さ、平気だったのに。
彼が与えた温度があまりに温かかったから、慣れてしまったから、私は寒さに耐えられない。
白のカーディガンに袖を通す。もう温めてくれる人はいない。きっと、もう会うこともない。熱を与えられない私の腕を守るのは、この真っ白のそれだけ。
髪を結う。長いのが好きだと言った彼は、もういないのに。
髪を結う。
(101130)