跡部が一週間部活に顔を出さなかったのは生徒会のせいであった。そろそろ引き継ぎを視野に入れて動かねばならず、放課後をすべて生徒会室で過ごしろくに部の面倒など見ていられないような多忙な日々を送っていた。
 久しぶりに、部活も終わってしまった時間ではあったが部室に顔を出せば、着替え途中の部員がちらほらと残っていた。その数人と言葉を交わし奥の跡部専用ソファを陣取ると、一週間分の部誌に目を通し近況を確認する。
 一人また一人と帰路についていく仲間たちに尊大な挨拶を返しながら部誌に視線を滑らせていけば、ふと跡部の隣、二人掛けソファの空いたスペースがギシと軋んだ。目線だけでそれを捕らえると、そのまま同じく目だけを動かして室内を見渡す。隣の人物――日吉以外は、みんな帰ってしまったらしい。そもそも彼が誰かのいるところでこうして寄ってくることはないので、確認するまでもないのだが。

 珍しい、と跡部は目を細める。日吉の方から近づいてくるなんて。
 口の端を歪ますまいとすまし顔で平然としたふりをしていたら、さらに日吉がおずおずと跡部にくっついてきた。それから、戸惑い気味に腕が伸びてきて、弱々しく跡部に抱き着く。
 まさかと思わず固まった。日吉のその行為に、心当たりはあった。だけど、信じられなかった。
 だって、たかが一週間だ。
 それとも、その一週間をたかがと考えていたのは自分だけだったとでもいうのか。

 チッと舌打ちをすれば、ビクリとその身体が跳ねた。

「寂しい思いさせたか」
「は、」
「寂しかったかって聞いてんだよ」

 日吉はうろうろと視線を彷徨わせ、ぐっと頭を跡部に押し付けると、こくんと頷いた。
 それから、生徒会が忙しかったことは知っていたし、放課後をずっと縛られていたのもわかっていた。部に顔を出せなかったのも仕方ないのだと理解していたともごもご告げられる。
 それがさらに跡部を苛立たせた。

「わがままだって、わかっていたので、」
「もういい。黙れ」

 うるさい口を己のそれで塞ぐ。
 部誌を放り出し日吉を抱き抱えた。

「……悪かった」

 決して我慢をさせたかったわけではない。
 ただ、一週間だと見くびっていた。
 仕事に没頭していた跡部の一週間と、普段通りの日吉の一週間。その時間が同じわけがないのに。

「無理にでも時間を作りゃあよかった」
「……無理は、させたくありません」
「俺はお前に我慢はさせたくねえな」

 跡部は日吉から離れると、机の上に適当に置かれていた部誌を乱暴に定位置へと戻した。鞄を引っ掴むと日吉の腕を取りずんずんと出口に向かって歩く。
 どう見ても帰る様子の跡部に、日吉がわずかに顔を曇らせた。
 それに気づいてか否か、振り返らずに跡部が言葉を吐き捨てる。

「帰るぞ」
「……はい」
「俺んちにだからな」
「……はい?」

 なぜ跡部の家に? と訝しんだ表情を浮かべる日吉。

「一週間分、埋め合わせする。今日は朝まで離さねえから、そのつもりでいろ」

 まるで、お前のためだと言わんばかりのその言葉だったが。
 それが誰の望みなのかなんて、跡部が一番よくわかっていた。

残念ながらべた惚れ
(一週間だって離れられない)


企画「跡日日常幸せ計画」さまに提出
ちなみに朝までぎゅってしながら寝るだけでいかがわしいことはしません
(110626)