「わた、私そんなに魅力ないですか……!」
突然抱き着かれたことにもびっくりしたし、紡がれた言葉にもびっくりした。
荒垣は飛び上がりかけた肩を見栄だけで押さえ込み、そうして恐る恐る千冬を見る。彼女の方が、いかにも“恐る恐るです”という表情を浮かべて腕に力を入れていた。
「……は?」
いっぱいいっぱいといった様子で抱き着かれ、まぶたはぎゅっと閉じられて。
その様はとてもいじらしくてたまらないが、せり上がる邪な思いを無理矢理胸の奥へ仕舞い問い掛ける。
パッと開いた目は切々としていた。
「だって、私たち付き合ってるんですよ?」
「ばっ……!」
そんなこと一々口に出すな、と照れ隠しに文句しようとしたが、それよりも先に千冬がまくし立てる。
「なのに、なのに……なんで触ってこないんですかあ!」
「はあ?!」
今度こそ荒垣は大声を上げた。
じわじわと殺し切れなかった熱が頬に集まる。
「おま、何言ってんだ!」
「だから、荒垣さんが触ってくれな、」
「わかった! もういい! いいから黙れ!」
律儀に繰り返そうとした千冬に待ったをかけて、顔を覆うように手をついた。
両頬が馬鹿みたいに熱い。
「てめぇ女だろうが……そういうこと簡単に言うんじゃねえよ……!」
「言わせたのは誰ですかあ……」
俺じゃねえだろと言いそうになり思いとどまる。
……俺なのか?
確かに、荒垣は千冬に必要以上に触れないが。
それは荒垣にとって精一杯の自制である。
初めて千冬を部屋に入れた日、止まらないという宣言通りにがっついて、随分と彼女に無理をさせた。
だからこそ、リーダーに生徒会に部活、二足どころではないわらじを履く彼女に負担をかけないようと我慢してきたのに。
「……触れていいんだな?」
「触って下さい、もっと」
「触るだけじゃ終わんねえぞ」
それでも本当にいいのかと再度問えば、千冬の顔が赤らむ。
――そういうこと、女の子に言わせないで下さい。
恥じらい呟いてから、千冬は唇に触れる感触を待ち目を閉じた。
狼さん、早く!
(食べて下さいよ!)
陸からのリクエスト「荒ハム」でした!
甘々とのことだったので、こんな感じに仕上がりました
割とするする思い浮かんで楽しく書けました^^
陸、リクエストありがとうございました!
(111210)