おかしい、と私は首を傾げて呟いた。ゆかり程ではないにしても、私だって女の子だ。ネイルを気にしたりマスカラをつけてみたりその日の気分で香水を変えてみたり、いわゆる女子力を日々磨いている。それにくわえて、自分でもわかりやすいと思うアプローチのかけ方。ラウンジでは先輩の横は常にキープしてるし、料理を教えてもらったり作ってもらったりもして(これは風花も一緒だけど)料理部で作った甘さ控えめのさくさくクッキー、バナナカップケーキ、誰もいないところでこっそりと、「先輩、よかったら食べてくれませんか?」
「……で、これでなんで気付かないのよ…!」
ダンッ! とテーブルを叩けばカップラーメンの残り汁が波打った。順平が呆れたように私を見つめている。年中ラーメン男め、そんなあからさまにため息をつかないでよ。順平が両手を挙げて呟いた。お手上げ侍。……うるさいわよ!
「ねえ、なにが足りないと思う? やっぱり魅力? そうよね、それだけまだMAXになってないの」
「いやごめん、何の話?」
「シャガール行けばいいって思ってるんでしょう! 飲んでるわよ! ほぼ毎日! 深夜まで!」
「おーい、千冬さん、帰ってきてー」
ああもう! と半ば八つ当たりのようにクッションを順平に投げつける。間抜けな声を出してベッドに倒れこむ順平。そこしか腰掛けるところがないからって女の子がいるのにベッドに座るなんてほんとデリカシーのない奴だ。だからもてないのよ、と言ったら、順平がいやでも、と言い訳を始めた。
「いやでも、冬っちもいくら俺だからって男の部屋にひとりで来るのはどうかと思うぜ」
「大丈夫、順平くらいならガルーラ、いやガルで一撃だから」
「弱っ! 俺っち序盤のシャドウと同等?!」
順平の部屋は相変わらず汚くて、どこになにがあるかなんてわかりやしない。変なものが出てきたらお互いに困るので片付けてあげることもできないし。というか、なんでこんなに物が多いんだろう。私の部屋より多いなんて。女子として落ち込む。順平の馬鹿!
一階から扉の開く音がして、荒垣先輩の声が聞こえる。今日は私と順平以外みんな出かけてるから、ラウンジには誰もいない。よし、チャンス。今日は先輩に二人っきりで料理を教えてもらおう。伏し目がちに、先輩に食べて欲しいな、なんて言ってみたりして。
「よし! 順平ラウンジに降りてこないでね」
「ひどくね?」
それでも、しゃーねえなあと言って床からゲームを探す順平は、私の恋を充分応援してくれている。わかってる。順平は優しい。こうして私の愚痴を聞いてくれて、背中を押してくれる。
「あー、順平まじ愛してる!」
「へーへー、わかったから早く行ってこいって」
部屋の扉を開けながら愛の告白をして、私はラウンジへ駆け出した。
千冬がリズムよく階段を下りる音を聞き終えて、順平はそっと部屋を出た。
階段の手すりに頬杖をついて下の様子を窺う。荒垣先輩、と千冬の鈴を転がすような声が聞こえてきた。
今の冬っちの様子を当ててやろうか、と順平は誰に聞かせるわけでもなく言ってみた。ピンクのエプロンを身に着けて、先輩はこっち、とお揃いのエプロンをプレゼントしているところだろう。その買い物に付き合ったのは紛れもなく自分なのだから。
先輩のほうも当ててやるよ。荒垣先輩は、少し躊躇した後に大人しくそれを受け取るだろう。それは、きっと、というより、絶対。
「なあんで気付かないのかねえ」
荒垣の優しい視線の先には必ず千冬がいて、夜な夜なシャガールへ出かける千冬を心配して夜遅くまで起きて、苦手なお菓子を彼女の手作りだからと、だたそれだけのために食べて。どうして彼女は気付かないのだろう。
「勘違いされるって、思わないのかよ」
こうして自分の部屋に訪ねてきて、愛してるなんて叫んでいって。
一階にいる荒垣に、聞こえないはずがないのに。
「この、似た者同士が」
妬けちゃうねえ、と笑って、鈍いのはお互い様なのだということをまだ千冬に教えてやるものか、と順平は天を仰いだ。
彼と彼女の片思い
(親友を、そう簡単に横から掻っ攫われるなんて面白くないだろ?)
陸へ献上
(101019)