夜は徐々に深まり光の居場所を狭めた。
リビングには飲み会帰りで酔い潰れたマスターと、むにゃむにゃ何やら寝言を歌う青いボーカロイドがひとり。
マスターがか細い声で紡いだ言葉に従いアカイトはコンビニへと足をやったところだ。
ウコンの力、とマスターは言った。
我が家にそんなものは常備されていない。
お使いに行ける者などふたりしかいないのに、片方はすっかり夢の中だった。
誰が働くか、否、誰が働かなくてはならないかなんて、問わずともわかる。
そういうわけで、アカイトはひとっ走りして目当てのものを手に入れてきたわけだが、リビングは先程と少し様子を変えていた。
「アカイト……!」
ひぃひぃと荒く息を吐きながらカイトがアカイトへ近寄る。
アカイトはぽかんとカイトを見つめて、それからマスターを見やった。寝ているようだ。
「どうしたんだ」
買ってこいと言ったくせに勝手に寝てしまったマスターなど知らない。
マスターと入れ代わるように起きたらしいカイトに再び視線を戻し尋ねれば、小さく口を割った。
「からい」
「は?」
「ハバネロが、やっぱりからかった」
なんだ、一体どうした。
ハバネロが辛いなんて当たり前である。
だって、それはいつもアカイトが食べている辛味で、カイトもそれはよく知っているはずだ。
「今日は、アカイトとずっと一緒にいたから」
「うん」
「からいのも平気かもしれないって思ったのに」
「うん?」
理屈がよくわからない。
「ん?」
カイトの方も、あれ? という表情を浮かべて、だからねと説明を重ねた。
「今日は、ずっと一緒にいたでしょ」
「そうだな」
「だから、俺の味覚もアカイトとおんなじになってるかもしれないって」
試してみた、とカイトは顔をしかめる。試みは失敗に終わったようだ。
「ハバネロ、食べたのか」
「うん」
「暴力的な辛さだったろ」
「口が、痛い」
ベッと突き出された舌に堪らず吸い付いた。
驚いた拍子に引っ込もうとした舌を捕まえて、なぶる。
甘くない口づけは、初めてで興奮した。
暴力的な刺激が
そのまま君を作る。
(眠りこけたマスターの横、眠らない夜を過ごす)
Happy birthday かずさ!!!
(111101)