マスターが食べていいよって言ったんだ。
 にこにこと笑うカイトの左手にはアイスカップ、右手には溶けたアイスがしくしくと流れているスプーンがひとつ。
 袖口を汚すまいとぐいと腕まくりをしてやれば、ありがとうと惚けた。

「で、マスターは?」
「どこか行っちゃった」

 それはそれは大変だ。どうやらこの子が綺麗に食べられるか見張るのは自分の仕事になったらしい。
 アイスアイスとうるさいくせに、溶けて流れるそれに興味はないのか、カイトは手首を伝うしずくに無頓着だ。
 カイトの中では、固形こそがアイスで液体はもう違うものらしい。

「アイスおいしいね」

 お前しか食ってないけどな。と言ってもアカイトは甘いものが好きではないから、ひとくちあげると言われても困るので黙っている。
 代わりに、カイトのひじまで伝った液体を舐めた。
 きょとんとしたカイトに、ああ甘いとアカイトがしらめっつらをする。

 だって、溶けたアイスはもうアイスではないのだ。
 液体になってカイトの柔肌を伝うこれは、アイスではなくて。
 アイスじゃなくてなんなのだと聞かれたら、カイトを伝ってるんだから、カイトなんじゃないかって思ったんだ。

「……甘い、まずい」
「溶けちゃったから」

 こっちはおいしいよとカイトがアカイトにスプーンを差し出すも、それに構わずアカイトは自分用の七味唐辛子をカイトの腕にぶちまけた。
 液体と粉末でぐちゃぐちゃになったその腕にかぶりつく。

「……これならいけるな」
「そこまでして舐めなくてもいいんじゃないかなあ」

 ただ垂れ流すなんてできるものか。
 だって、これはおまえ自身なのだから。
 躍起になって、ただ甘いだけの汁とただ辛いだけの粉を混ぜ合わせて、一気に食べてむせた。

愛すべきおまえと思えば/
この苦みを感じるほどの甘みも/
ただただ耐えられようぞ


かずおさんに献上(予定)
(110630)